第2回メディアワークショップ「がん対策の格差と好事例」
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2.「がん対策の格差と好事例 ~地方発全国行きの最新情報~」
b0144534_1735582.jpg日本医療政策機構がん政策情報センター長
埴岡 健一


重要な臓器別や疾病別のデータ分析

本日は、①がんの格差②がん対策の好事例③地域を動かすアドボケートたち――の3つについてお話しします。

がんの格差については、着目点がさまざまあります。罹患率格差、死亡率格差、治療方法格差もあれば、治療成績格差もある。がんを減らすのに有効であると言われるがん検診についても検診率格差があり、肺がんの大きな原因の1つであるたばこに関しても、喫煙率格差があります。

また、格差を比べる際には、都道府県単位がよく使われますが、もう少し細かい区切りである2次医療圏や市町村での単位で見るなど、いろいろな視点から比べることができます。病院ごとにも治療成績などの格差があります。現在、がん拠点病院を軸にした各医療施設の連携でがん治療をカバーすることが、がん対策の大きな柱になっていますが、拠点病院とそうでない病院の治療成績には大きな格差があるようです。また、医師数、対策費等の医療資源についても地域によって格差がある。がんを減らすための対策に関しても、有効な政策を連発している地域もあれば、何もしていないかのように見える地域もあり、かなりの格差があるのです。
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では実際に、まず都道府県別がん死亡率(男性)を比較してみましょう(上図)。もっとも死亡率の高い青森県ともっとも低い長野県の間には1.5倍ほどの開きがあります。現在の全国的な目標は、死亡率を全体で20ポイント減らすことですが、多くの県にとって長野県程度のレベルに達することであり、決して実現不可能なことではないはずです。

今度は女性の死亡率を都道府県別に比べてデータを見ましょう。男性の死亡率を示したグラフの形とは少々違っていますが、県の間で大きな格差があるのは同じです。総合的ながん対策を打つのは必要ですが、地域別に多いがんに着目して男女別にがん対策を推進していくことが大切です。

過去10年間でどれほどがん死亡率を低減できたかの都道府県別データもあります。それによると男性に関して、広島県は26%、青森県は12%の減少です。広島県はあと10年このペースがつづけばがん計画の目標値を軽くクリアしますが、後者は10年を経てもこれまでのペースでは目標に達しません。女性のがん死亡率に関する同様のデータでは、群馬県の減少率は過去10年で-3%、つまりむしろ増えてしまっており憂慮される事態です。

がんを減少させるための対策を打つには、がん種別の都道府県別死亡率を知ることが大切です。肝臓がんの県別死亡率グラフをみれば西日本で多いことが一目瞭然です。東の方では山梨県が飛び抜けて多いことが分かります。がん全般では比較的死亡数が少ないためがんを特に問題視していないように見える沖縄県と宮崎県も、疾病別に見れば、実は、沖縄では男女の結腸がん白血病が全国的にもワーストに近いレベルであること、宮崎県では卵巣がんがワースト1であることなどの実態がわかってきます。このように、疾病別のデータ分析は非常に大切だと思います。

現存する地域格差を示すデータさえない

さて、地域格差について、少し詳しく説明していきます。大阪は全般的にがんの死亡率が高いと認識されていますが、大阪府内にも大きな地域格差が存在することも大きな問題なのです。また、病院格差もあります。同じ進展度合いの大腸がんに関しても病院によって5年生存率が80%程度から50%程度までとかなりの格差が認められます(下図)。
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拠点病院とそれ以外の病院の格差もあります。たとえば大腸がんの場合、大阪府の4,771の症例のうち1,000例を拠点病院で治療しておりその生存率は62.2%です。一方、大阪府全体の生存率は51.3%です。つまり、拠点病院で治療された大腸がんは全体より10.9%生存率が高いといえます。

このデータは、ほかにもさまざまな事実を教えてくれます。たとえば大腸がんの全ステージ(進行度)の症例を集めてみると約1万5,000例になりますが、うち約3,000例、すなわち約20%が拠点病院で治療されている。つまり、質の高い拠点病院を整備しても、患者さんのうち20%しかその恩恵をこうむれない。さらに分析してみると、がん治療をリードすべき拠点病院が比較的軽いがん患者を受け入れている現状も分かってきます。

本来47都道府県すべてで、このようなデータが整備され、がん治療の実態、具体的には発生率、治療成績、死亡実態などが正確に把握されたうえで対策が打たれるべきですが、現実はいまだそこに至っていません。少なくとも、現状ではデータさえも不十分であると知っておいていただきたいと思います。

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もう1つ興味深いトピックスは、医療資源の格差です。十分な経験を伴ってがんを治療できる医師数にも格差があるのです。がん薬物療法専門医数を見ても、放射線治療認定数をとっても、都道府県別によってかなりの差があます。そして、その地域に多い種類のがんをカバーする医師が、必ずしもその地域に多くいるわけではないのです(上図)。がん薬物療法専門医とは抗がん剤を扱う高いスキルを持った医師を示しますが、資格自体が新しいこともあって、いまだに人数がゼロの県もあるほどです。がん拠点病院には、最低1人、2人は確保してほしいものです。

私たちは、都道府県別、あるいは九州、近畿などのブロック別にがんを治療できる医師数をモニターし、全体的な医師不足のみならず専門医の偏在にも着目し、理想的な適正配分を示し実現の一助になっていきたいと考えています。

各県で生まれている施策の好事例

ここまでお話ししてきた格差や問題点を踏まえ、それらをいかに解消していこうとしているのかといったお話に移ります。今、問題解決のために数多くの施策が打たれようとしていますが、計画書止まりで多くは実行にまで進んでいません。しかし、わずかながらも非常に新鮮な好事例が生まれているのもまた事実であり、今回はぜひそれらを紹介したいと思います。
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最初に、都道県別のがん計画力をスコア化し、比較したものを見てください(上図)。計画力をスコア化するのは難しく定評ある方法はいまだにないと思います。これは一つの試みと考えてください。まず、全国の計画を読んで、国の計画に記載されていることを超えているような15の項目を選びました。15項目の内容は、資料のとおりです(下図)。そして、各県のがん計画に、15項目のうちいくつが含まれているかをカウントしたのが今回のスコアです。島根県がもっともスコアが高く、次いで茨城県、兵庫県、鹿児島県などがそれに続く結果となりました。
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各県の計画書を詳細に読み込んでいくと、さまざま施策の好例を拾い上げられます。たとえば、現在、国が患者さんに向けて包括的な資料を作成し、「患者必携」として提供する計画ですが、山形県では「かゆいところに手が届く」ような、地元版「患者必携」を作成する予定です。また、福島県では、県庁のウェブサイトを通してがん患者団体やがん患者支援団体の情報を県民に周知することを決めました。

個別施策とは別に、がん対策全体をカバーするような大きな施策を打っている都道府県もあります。島根県、高知県、新潟県、神奈川県ではがん対策条例が制定されています。現在は、宮城県、愛媛県、長崎県などでも制定の動きがあり、おそらく47都道府県に徐々に広がっていくものと思われます。

作られたがん計画が実際に実行されるかどうかの1つのバロメーターが、予算化されていることだと考えられますので、各県の予算化の状況を調べてみました。佐賀県では、がん予防推進委員によるがん対策の普及・啓発をボランティア中心に進めるための組織化と育成に予算をつけています。患者さんが相談を寄せる窓口創設に対しは、相談支援推進事業として秋田県、静岡県などが予算化に踏み切っています。

日本でも始まったアドボケートの活動

つづいて、患者アドボケートたち――政策提言する患者関係者が生まれているというテーマに移ります。

先ほどのお話にもありましたが、今、患者、国民の関与を受けて政府が政策をつくるといった、新しいサイクルが生まれています。がん対策基本法は、好例の1つのモデルと言えるもの。議員立法で成立した点も象徴的です。政治家の間では「これは、患者立法」、「市民立法」とも言われています。いずれにしろ、今後同じような革新的な政策立案プロセスが生まれる兆しを感じます。

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基本法を受けてつくられた国のグランドデザイン――がん対策推進基本計画には「がん患者及び患者団体等は、がん対策において担うべき役割として、医療政策決定の場に参加し、行政機関や医療従事者と協力しつつ、がん医療を変えるとの責任や自覚を持って活動していくこと」という文言があります。私たちは、いわゆるアドボカシーが政策決定の根幹に携わるように位置づけられたと捉えています。

がんに関しては、治療の在り方に制度的問題や政治的問題が絡んでいると気づき、声をあげ、制度や政策を変えるために活動しようという人々が増えています。全国には患者委員が80人ほどいると推定されます。そのうちわれわれが連絡先を把握できた53人の患者委員にアンケートしてのうち38人が回答をくださいました。その結果、患者委員は「感情的議論よりも論理的議論をしたい」、「具体的な提案や対案をともなった発言を評価する」などの考えを持っていることが明らかになりました。患者委員の皆さんが、個別利害を超えて、がん患者全体を代表して語れる存在になりつつあると強く感じました。イメージとしては、日本の衆議院選挙区すべてでがんアドボケートが存在し、その人たちを宙死因にがん対策が大きなテーマとして扱われるようなムーブメントが広がっていく姿を思い描いています(上図)。

私たち日本医療政策機構 市民医療協議会がん政策情報センターでは、ウェブサイトでの情報提供や人々の紹介をしていき、このようなアドボケートの方々を支援し、輪を広げていくよう手助けをしていきたいと考えています。

■講演者略歴■
埴岡 健一
日本医療政策機構理事
日本医療政策機構市民医療協議会協同議長
がん政策情報センター長

1984年、大阪大学文学部卒業。1987年、日経BP社(現)入社、日経ビジネス編集部記者、92年日経BPビジネスニューヨーク特派員、94年ニューヨーク支局長、98年日経ビジネス副編集長(金融、企業戦略、経営、企業ケーススタディなどを担当)と、経済・経営ジャーナリストとして記事を執筆する。99年骨髄移植推進財団(骨髄バンク)事務局長となり、医療システム改革に取り組んだ。03年7月日経メディカル記者、04年7月同編集委員(医療の質評価、がん診療などを担当)、医療ジャーナリスト。また、がん患者支援サイト「がんナビ」の編集長も務める。04年8月東京大学医療政策人材養成講座特任准教授、日本医療政策機構理事。07年4月、がん対策推進協議会委員となり、がん対策戦略策定に参加。08年5月より日本医療政策機構常勤。
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乗竹 亮治
日本医療政策機構 市民医療協議会

オクラホマ州立大学を経て慶應義塾大学総合政策学部卒業。日本医療政策機構インターンとして、シンポジウムなどの企画運営に携わった後、2007年4月から日本医療政策機構勤務。患者支援プロジェクトである「市民医療協議会」を中心メンバーのひとりとして設立。患者会向けPC寄付プロジェクトや患者リーダー向けのリーダーシップ研修などを運営する。国内患者会の国際連携支援や海外研修支援も実施している。

■関連リンク■
日本医療政策機構 市民医療協議会ウェブサイト
日本医療政策機構 がん政策情報センターウェブサイト
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by hpij | 2008-11-27 17:40 | 市民医療協議会関連
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