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第17回朝食会「『医療の質』を測る(福井次矢先生)
去る7月10日、第17回朝食会を開催しました。今回は聖路加国際病院院長の福井次矢先生に「『医療の質』を測る」というテーマでご講演頂きました。多数の皆様にご参加頂きありがとうございました。

<日本医療政策機構 小野崎挨拶>

最近「『医療の質』を測る 聖路加国際病院の先端的試み」というタイトルの本(註:インターメディカ 2007)が出版され、大きな話題を呼んでいます。この本で紹介されている聖路加国際病院の取り組みは、二つの点で画期的だと思います。一つ目は、医療の質を測る「モノサシ」を開発して、実際に測定したということ、二点目に、それを出版して大胆にも公開したということです。今日はこの取り組みを始められた福井先生にお話を伺います。福井先生は京都大学医学部を卒業後、聖路加国際病院内科で研修、その後、ハーバード大学の関連病院における臨床や、京都大学教授などを経て、現在は聖路加国際病院の院長としてご活躍されております。福井先生、よろしくお願い申し上げます。

b0144534_11182837.jpg<福井先生講演要旨>

「『医療の質』を測る」

■なぜ「Quality Indicator」か
病院で、医療の質を数値として目に見える形にすることが、全ての医療者にとって、自分達が提供する医療を改善していく上における大きな動機付けになることを実感しました。「Quality Indicator」という医療の質を測る指標を導入し、それを改善するにはどうしたらよいか、聖路加国際病院における経験についてお話させて頂きます。

Quality Indicatorというものについて考え始めたきっかけは、臨床で患者さん一人一人を見ながら、一方で、常に対象集団のデータを頭において医療の質を考えなければならないという、公衆衛生的なバックグラウンドと深く関係していると思います(註:福井氏はハーバード公衆衛生大学院において臨床疫学でMPH取得)。例えば、私が米国にいた1980年代、アメリカでは、同じ病気でも病院や州によって行われる治療が大きく異なることが繰返し報告されていました。このような問題意識が背景にあったと思います。血圧を140/90mmHg以下にコントロールすることで高血圧による合併症をかなり抑えられることが証明されていますが、実際に病院で高血圧の患者を治療している医師達は、誰一人として全患者の中、血圧が140/90mmHg以下にコントロールされている患者の割合を把握できていません。私が以前勤めていた病院でも、他の診療科の患者のデータを見ることはできず、患者全体の血圧のコントロール状況を知ることはできませんでした。

■「ブランド病院」をデータで証明したい
そして4年前に聖路加病院に移ってきましたが、聖路加病院は外からはブランド病院のように思われていましたが、本当にそうなのか。すなわち、質の良さではなく愛想の良さや建物の綺麗さなどのレベルで評価されているのではないかという疑問を持ちました。私は「ブランド病院」であることを真に証明するデータを出したいと思いました。聖路加病院は5年前に電子カルテ化し、それにより全ての患者のデータを引き出せる状態にありましたので、それを利用して医療の質を測る試みを始めました。医療事故については個人の能力・注意力に任せるのではなく、システムとしてのアプローチ、即ちフール・プルーフ(間違ったことができないようなシステム)を作ったり、フェール・セイフ(間違えたことをしても患者に危害が加わらないようなシステム)を作ったりというアプローチが取られていますが、標準的な医療についても個々の医師に任せるのではなく、システムとしてアプローチするべきだと考えています。病院全体として責任を持って、適切な医療を提供するために、医療内容を目に見えるようにするのが「Quality Indicator」です。

b0144534_1119459.jpg従来、医療の質は、「ストラクチャー」「プロセス」「アウトカム」という三つの側面で表されてきました。ストラクチャーは医療機器や専門スタッフの充実度、プロセスは医療や看護の内容そのもの、アウトカムは患者の死亡率や治癒率など医療の結果としての健康状態のことです。日本の病院は全体的にはストラクチャーは非常に恵まれているので、我々は新たに医療の質を診療内容(プロセス)+結果(アウトカム)+患者の納得・満足という形で表すこととしました。

■臨床疫学の重要性
適切な医療とは何かを突き詰めると、それは根拠に基づいた医療と言えます。医療上の判断の根拠には生物学的論理と、人を対象とする臨床疫学的な結果という二つがありますが、根拠に基づいた医療というのは後者の方であり、患者さんに実際に行なった結果がどうだったかという調査・研究の結果を重視しようという考えです。これは、生物学的な論理がいまだ不完全であることを考えると、当然であるとも言えます。欧米における大規模な臨床試験からは、生物学的には正しいと思われる医療内容でも実際の患者の健康にもたらす結果は悪かったという事例もあるのです。信頼できる臨床試験の結果を根拠とし医療を提供することが強く求められていると言えるでしょう。

このような流れの中、信頼できる診療内容が「診療ガイドライン」という名前で色々な学会によってまとめられ、一般の方でもインターネットなどを利用してアクセスすることが可能になってきました。欧米に遅れること15年、ようやく日本でも信頼できる医療の環境整備が進んできました。

■欧米の先行事例に学ぶ
しかし、欧米は既に次のステップに進んでおり、信頼できる医療が実際にどれだけの病院で実施されており、その結果患者の治癒率や満足度がどのように変化しているかという検証まで行なわれています。現実的には、どれだけ信頼できるデータに基づいた医療内容をガイドラインとしてまとめても、それに則って診療を行なわない医師が少なくないというのも事実です。そのため、いかに医師にガイドラインに沿った診療をしてもらうかというのが大きな課題となっています。そこでindicatorにより提供する医療の質を数値化しフォローすることで、ガイドラインに沿った診療を促すことが欧米で行われており、実際にそのような活動で診療内容が改善されたことが多数報告されています。

このような医療の流れを知った上で、聖路加病院ではアメリカやオーストラリアなどの外国のQuality Indicatorを参考にして、2004年のデータから算出・公開を始めました。聖路加病院は診療情報管理士という、カルテの内容を管理する職員が20名近くおり、そのうちの5名にQuality Indicatorに関する仕事をやってもらうことにしました。肺炎患者における来院4時間以内の抗菌薬投与率や急性心筋梗塞患者における退院時処方率など、100近くのIndicatorを測定しています。たとえば、糖尿病患者のヘモグロビンA1cの値を7%以下にコントロールすることで合併症を非常に少なく抑えることができますが、聖路加病院では糖尿病の薬を処方されている全ての患者の中で、ヘモグロビンA1cが7%以下にコントロールされている患者の割合もIndicatorとして扱っています。そして、2005年では50%にすることができ、これはアメリカの39.8%に比べて良い成績と言えます。しかし我々はもっと成績を良くするために、糖尿病の患者を10人以上担当している医師毎ごとに、担当患者のなかでHbA1cを7%以下にコントロールできている割合を出しています。これは必ずしも医師の臨床能力のみを反映しているわけではありませんが、こうすることで改善の方策を検討できるようになります。

b0144534_11193892.jpgIndicator改善の方策の中でとくに力を入れているのは、医師の教育です。聖路加病院では糖尿病を専門としている医師は3名しかいません。それを踏まえて、先ほどの医師毎の成績のグラフを見せつつ、医師の勉強を促し、勉強会を何度も開いています。その結果、HbA1cを7%以下にコントロールできている患者の割合は、年毎に増加し、2007年には62.5%にまで上がりました。特に、勉強会に参加しなかった医師よりも参加した医師の方が成績上昇が著しいことが分かりました。このQuality Indicator導入において、一般的に一番恐れられていることは、難しい患者の診療を放棄して他の病院に送る医師が出てくるのではないかという点ですが、幸い、危惧するようなことは起こっていません。

■さらに広がる取組み
毎月一回病院においてQI(Quality Indicator & Quality Improvement)委員会というのを開いております。委員全員でデータをフォローし、必要に応じて院内のさらに大きな会議でその数字を見てもらっています。現在は私達の病院内での取り組みに留まっていますが、本を出版したこともあり、他の病院の病院長なども関心を持ち始めています。今後おそらくQuality Indicatorの概念は広がっていくと思っています。多くの医療者が医療の質や患者のアウトカムという話に興味をもち、医療へのやりがいを再認識して頂ければ幸いです。


<質疑応答>

Q: 患者満足度の測定についてはどのように行なわれているのでしょうか。
A: 病院としては毎年フォローしていくために、できるだけ簡略化した満足度調査を行っています。5つくらいの項目について、その数値を毎年フォローしていきます。2004年と2005年は全国の病院で使われていた患者満足度調査法を使っていました。しかし、項目が非常に多くてそれをずっと使っていくのは負担が大きいと考えましたので、それを参照にしながらできるだけ少ない項目で毎年フォローしていけるようなものを考えて、今年から使い始めたところです。全体としての満足度と治療への満足度の二つを評価できるようにしています。

Q: 看護の質をどう評価するということかの点ですが、今後どのように充実させていくお考えでしょうか。
A: 医師だけでなく、できるだけ多くの職種が関わるIndicatorを作りたいと考えています。診療情報管理士が全ての部署をヒアリングして、出したいIndicatorはないかを聞いてみるなどしています。しかし、医師以外のIndicatorはまだ未成熟な部分があります。例えば看護については褥(じょく)瘡(そう)の発生率や看護師の資格などしか出ていません。今後もさらに検討していくつもりです。医師だけでなく、たくさんの職種が関わるIndicatorを扱うことが重要だと思います。

Q: 患者の満足度という観点からいうと、医療の質に加えてもう一つ、病院経営の質―具体的には待ち時間の長さや説明時間の短さ等が大きな不満の原因になっています。病院経営、医療制度そのものといった病院自身の努力では解決できない部分に対してどのように取り組んでいくおつもりかお聞かせ下さい。
A: 医療制度(診療報酬)に余裕がない現状では、時間をかけた、ゆったりした診療では膨大な赤字を抱えてしまいます。これを解消するためには制度そのものを変える必要があると思います。初診の方なら45分、再診の方でも最低15分は診療を受けられるようにすると満足度も上がるでしょう。しかし、赤字が増えてもいいから理想の医療を、と言えないのも情けないところです。また、医師が実際にどのような説明をしているかという点については、今のところはカルテでは内容まで踏み込んだ記録はとれないのが現状です。会話した内容にいつでもアクセスできるようにテープだけでも録れれば、患者さんとの意思疎通の行き違いなどもかなり予防できるし、何分説明したかということも記録できます。診察室の中で医師と患者が一対一になるのではなく、第三者からの観察が可能な状況だということを意識することで診察の質は確実に上がるはずです。プライバシーの問題さえクリアできれば、何らかの方法で第三者による観察が可能な状況を作りたいと思っています。

b0144534_1120283.jpg<当機構代表理事 黒川挨拶>
慢性の疾患が多くなると患者としては色々話を聞いてほしいことが出てくる。しかし、大学の教授が時給1700円程度で働いている現状ではこれ以上話を聞くのは難しい。従って、これを解決するには医療制度そのものを変えなきゃいけない。そのためには、厚労省の人だけではなく、国民それぞれが、より良い世界を作っていくのだという視点を持って、日本にとって何を必要で何を選択するべきか考えていく必要がある。このような開かれた議論の場を通じて、私たち国民自身が考えていくことが重要だ。

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by hpij | 2008-07-24 11:22 | 医療政策関連
「HPIJ政党インタビュー2008」ご報告
医療に関する諸問題が国民の大きな関心を呼び、また政治や政権運営にも大きな影響を与えています。また、来たるべき解散総選挙に向け、各政党は医療政策を公約や政権構想(マニフェスト)の最重要分野のひとつと位置付け、その検討が始まっています。

このような中、日本医療政策機構では、主要政党の厚生労働部会長など医療政策のトップに「HPIJ政党インタビュー」を実施しました。自民、公明、民主、社民、共産の5党に対し、主として医師不足対策、医療財源の確保、そして日本の医療政策のあり方など、医療政策の喫緊の課題について各党の見解を伺いました。

インタビューは2008年6月、次の5名の方に対して行われました。
自民党:衛藤晟一参院議員(党厚生労働部会長)
公明党:渡辺孝男参院議員(党厚生労働部会長)
民主党:山田正彦衆院議員(党「次の内閣」厚生労働大臣)
共産党:小池晃参院議員(党政策委員長)
社民党:阿部知子衆院議員(党政策審議会長)

「HPIJ政党インタビュー2008」をすべて見る

各政党とも共通して、医師不足対策などの医療提供体制の改善に強い意欲を見せた一方で、そのための財源確保の方策については意見が分かれました。また後期高齢者医療制度についても与野党で意見が大きく異なりました。また、医療を有望な産業分野として位置づけるべきとの発言も目立ちました。各インタビューとも3-5分程度となっております。各政党の見解をぜひ見比べて頂きたいと思います。

■関連記事■
■医療政策「わが党は、こう考える」(CBニュース)
■「HPIJ政党インタビュー2007」
■You tube日本医療政策機構ページ
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by hpij | 2008-07-23 10:26 | 医療政策関連
第2回朝食討論会「民主党の新たな医療政策」報告
2008年7月2日、日本医療政策機構は、都内ホテルにおいて第2回朝食討論会「民主党の新たな医療政策」を開催した。この朝食討論会は医療政策決定に携わる与野党のリーダーの方に、医療政策の重要課題についてお話し頂きディスカッションを行うもので、第2回目となる今回は、民主党政調副会長、医療事故調査チーム事務局長の足立信也参議院議員を講師にお招きして開催、当機構の法人会員、理事、相談役などの参加のもと、活発な議論が展開された。

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■緊急討論「医療政策の緊急課題」

・日時:2008年7月2日(月) 午前8時-9時

・スピーカー:
足立 信也 氏 参議院議員
医師・医学博士
民主党政策調査会副会長
医療事故調査チーム事務局長

・ファシリテーター:
小野崎 耕平 (日本医療政策機構)


■概要
●小野崎 (日本医療政策機構)
今回は民主党の足立信也先生をお招きし、民主党が考える新たな医療政策についてお話をお伺いしたい。まず、今後の政治日程を振り返っておきたい。7月の洞爺湖サミット後に内閣改造が行なわれる可能性が取りざたされている。そして9月には民主党の代表選が、そして次はいよいよ解散総選挙を待つことになる。与党が政権を維持するかもしれないし、民主党がいよいよ政権をとるかもしれない。では、もし仮に民主党が本当に政権をとったら、医療政策は一体どう変わるのか。今日はそんなお話を伺いたい。

足立先生は、筑波大学を卒業後、外科医として臨床に20年以上携わってきた。国会議員としてよりも、筑波大外科助教授として、あるいは筑波メディカルセンターの診療部長としての足立先生をご存じの方もいらっしゃると思う。足立氏は2004年に参議院議員に転じ、現在は民主党の医療政策立案の中心メンバーとして活躍されている。現在の日本の医療政策の現状認識、そして今後の民主党の医療政策について、まずはお話をお聞かせ願いたい。

●足立氏
世界の医療の中の日本の医療
・日本の医学の水準
日本の医療はドイツ医学を模範に学んできたため、基礎研究が主流となっている。具体的なデータを18年版の科学技術白書よりいくつか紹介すると、まず、日本の科学研究費は約15.6兆円で世界第2位である。しかし、ここ数年間の伸びは中国・韓国で著しく、日本はあまり伸びていない。また、対GDP比で見ると3.14%で世界のトップであるが、その内訳は民間の資金が8割を占める一方で、政府からの支出は2割と世界最下位となっている。つまり、日本においては民主導で科学研究が行われていることが分かる。

その科学研究の中で、医薬品工業が占める割合は8.7%であり、この値はフランス・アメリカ・イギリス・ドイツの中で、最低である。つまり、医薬品工業分野の科学技術に占める割合が主要国中一番低いのが現状なのだ。

主要な科学論文誌に掲載された医学論分数はアメリカが断然トップだが、日本はそれでも第2位である。しかし、論文数は多いが、引用されるケースが少ない。また、科学論文中の医学論文の割合は27.5%しかなく、主要国中最も低い。日本の科学論文の中では材料・物理に関するものが多く、薬学は3位になっているが、臨床医学に関するものは少ない。基礎と臨床の乖離が見られる。

・「ドラッグ・ラグ」と「デバイス・ラグ」
どの産業で日本を立国させるのかという確固たる拠り所がなければならない。そのような状況の中、日本の成長産業は自動車、IT、医療、環境の4分野になると私は考えている。その中で今日は医療の話に限定してお話しさせて頂きたい。

2005年、アメリカは新規医薬品発売まで約5ヶ月、新規数は73品目。それに対し日本は24ヶ月で13品目となっている。つまり、新規医薬品の数とドラッグ・ラグは反比例の関係にある。デバイス・ラグも問題だ。日本製の医療機器の世界におけるシェアは2000年の15%から2003年には11%まで下がっている。つまり、医薬品も医療機器も世界におけるシェアは下がり、新規数も減っている。それに伴い、日本の医療機器の輸入と輸出の差は、輸入が約8500億円、輸出が約3900億円で、輸入超過額は4633億円にもなっている。

医療分野を日本の成長産業にするためには、医療機器や医薬品の臨床応用研究をさらに進めなければならない。立法府の立場で言えば、治験には法律があるが、臨床応用研究には法律がない。臨床応用研究に必要なのは、規制ではなく促進していくための法律だ。日本の行政が取り組んでいるのは規制だけであり、産業界と協同して進めていこうという発想がない。政府としてはどうしても官主導の動きを進めがちになっている。第三者のチェックを加えながら民主導で進めていくべき、つまり、医薬品医療機器総合機構を拡大していく方向が望ましいと考えている。

・日本の医療の水準
次に、日本の医療の水準を考える。WHOの2000年の評価では、日本は健康レベルの達成度と総合順位で1位であった。しかし、これを維持できる可能性は低い。OECD諸国の中で人口対医師数が27位、医療費が22位という状況だ。そんな中1998年に決まった医師数削減の閣議決定が、この度ようやく見直しになることなった。これは、150名からなる「医療現場の危機打開と再建をめざす国会議員連盟」の後押し、そして大臣の強い意向もあっただろう。

・医師不足問題 -医師10万人増員計画
現在、人口10万人当たりの医師数はOECD平均で310人に対し、日本は206人で、人口に換算すると13万人足りない。これまで政府は、医籍に登録されている医師数をもって計算しており、これによると、2025年に医師数は32万6千人となり、人口10万人当たり250人、医師数の不足は解消され、その先は逆に超過になると考えられていた。しかし、OECD諸国と同じように実働医師数で計算すると、この前提は崩れる。たとえば、病院では70歳前に定年を迎えるとすると、2025年の時点で4万人の不足が生じる。日本における週当たりの労働時間は勤務医で70時間、開業医で55時間であるが、これをイギリス・ドイツ・フランス並みの50時間程度で設定すると、6万人足りなくなる。更に、医師の16%を占める女性医師の実働労働量を0.81倍と見なすと、さらに1万人分足りなくなる。以上4万、6万、1万を足すと、2年前の32万6千人という政府試算と比べて11万人の不足が見込まれる。前出のOECD諸国並みに換算するとすでに13万人足りないという事実と併せると2025年までに少なくとも10万人の不足を解消しなければならない。

このような事態を踏まえ、我々は今後20年間で「実働の医師数を」10万人増やすというプランニングを行っている。

日本の医療崩壊の危機と民主党の新たな医療政策

・日本の医療崩壊の要因
日本の医療崩壊については大きく二つの問題がある。一つは先ほど申し上げたような労働力不足と過剰な労働時間だ。もう一つは、医療関係者と国民の意識のズレだ。日本の医療関係者の「自分たちは世界一の医療水準を保っている」という自負に対して、国民は日本の医療に対して大きな不満を持っている。これらが、日本の医療を崩壊に導いている大きな原因になっている。

日本医療政策機構の2007年の調査によれば、医療に対する満足度は、70歳以上では不満が少なく、低所得・低資産層で不満が高い。また、不満の多い項目は、「制度決定への市民参加の度合い」「医療費の水準」である。特に低所得者の間で医療費に不満がある。我々がこのような問題にどのように取り組んできたかお話したい。

・患者支援法
まず、2002年に「患者の権利法」を作成、患者の知る権利・納得する権利・自己決定する権利などを定めた。次に2年前にはこれを「医療の安心・納得・安全法案」とし、医師の説明義務・医療機関の実績の評価などを定めた。そして、今年に入って「患者支援法」と更にバージョンアップし、医療事故の究明制度などを含める内容とした。

・日本人の市民意識と国会議員の役割
これらのベースになっている考えは、医療はそもそも医療者側と患者側の協働作業であり、話し合いの中で治療方針などを決めてくべきであるというものである。日本人は「制度というのはお上から与えられるもので、状況が悪いのは為政者のせいだ」と考える傾向にある。自分たちで制度を作り上げていくという、市民としての意識が足りないのだ。衆議院はもちろん民意の代表であるが、国会議員の役割には「国民への啓蒙・教育」もあり、これこそが参議院の役割だと思う。国会議員が先頭に立って日本の中長期的な計画を作ることが必要であり、そういう意味でも我々は医療政策をじっくりと練り上げて、そして国民に伝えていきたい。

b0144534_16211959.jpg民主党の新たな医療政策
最後に、民主党が準備している医療政策の抜本改革の話をまとめたい。

・医療人材の確保
まずは、先程も申し上げた医療人材の養成確保法案である。これは、スキルミックスも含めて、看護師・薬剤師の役割を大きくして、医師の負担を減らし、実働の医師数を増やすものである。20年間で10万人の医師を増加するために、5万人の養成による純増と、5万人相当の人材活用という2方向で進め、これにより医師数は2,3割増加する見込みである。ただ、医師の養成5万人といっても最低7,8年はかかるので、私は歯科医師からの編入を組み入れていくことでより効果的に進めるべきと考えている。また、活用方法については、たとえば国公立病院に勤めている医師が兼業禁止のために内緒でアルバイトをやっているような現状を打開し、週何回かは他の病院に手伝いに行けるように正規の仕組みを作ることが必要である。現在74%の外科医が当直明けに手術をしており、40%がアルバイトをしている。こういう形をなくして、医療従事者の人材養成・活用・確保を効果的に進めていきたい。

・患者支援法
2番目は患者の支援法である。医療事故においては、情報の共有をベースとし、事故が起きた場合は院内での話し合いを促進する方向だ。そのために「医療メディエーター」のような話し合いを促す人を活用したり、納得のいかなかった場合は病院外の第三者による調査委員会に届出するという制度を進める。また、医師法21条を削除し、代わりに、死亡診断書・死体検案書を書く場合、死亡に至った経緯を十分に調べて患者や遺族に説明をすることを義務付け、どうしても死亡診断書・検案書を書けなかった場合は死因の究明のために警察の捜査を入れるような仕組みを考えている。

・医薬品・医療機器の研究開発
3番目は研究開発と臨床応用の段階の差をなくすことだ。研究開発の段階から、将来実用化するための行政側からの支援が必要であり、そのために、厚生労働省の医薬食品局と、医薬品医療機器総合機構を合体させたような新しい組織を作るための法案を考えている。

・無過失補償制度
4番目は、無過失補償制度について。来年から通常分娩の際に生じた脳性麻痺に対してのみ無過失補償制度がスタートする。しかし、これは民間保険になっており、結果として保険料が相当上がるはずだ。分娩費も上がるし、医療機関の保険料も上がるだろう。保障金が裁判の原資になる可能性もある。つまり、商品として成り立つのかどうか大いに疑問である。日本を除いて現在4カ国程が無過失補償制度を実施しているが、そのいずれも公的保険で賄われている。医療費の1%でも振り分けることで、無過失補償制度を脳性麻痺以外にも広めていけるようにしたい。

・医療財源
最後は財源の問題だ。国民健康保険が破綻しているのは周知の通りであり、全ての保険者が赤字に転落するなか、税の負担だけを減らした結果である。結局は収入や年齢に応じて政管健保・組合健保が健康保険を助ける形で援助しているのだから、私は究極的には医療保険の一元化しか解決策はないだろうと思っている。それも「地域医療保険」という形で、保健から医療、介護まで広く扱う保健医療事業体を作りたい。

日本の医療費の内訳は、患者自己負担45%、国・都道府県の税による負担が35%、企業負担20%だ。このうち、企業負担が減っているが、これは非正規雇用が増えているのが主な原因だ。今後、1700万人の非正規雇用者を正規雇用化することでこれが改善するだろう。また、収入に応じた保険料を払う仕組みにするなどして、患者の自己負担割合は2,3割を上限としていきたい。

・タバコ税
喫煙率を半減させるためにタバコの値段を倍にしたとしても、税収も期待できる上、タバコによる経済損失の7兆円を削減できることを考えるとメリットがある。消費税を一律に上げることは現状では難しいので、まず取り組むのはタバコの問題だろう。その後アルコールなどの嗜好品・富裕税なども視野に入れて税収増を考えたい。

医師偏在よりも若者偏在
医師の偏在が問題となっているが、日本では若者全体が偏在している現状があると思う。
定年を迎えた団塊の世代の中で第一次産業、特に農業に対する関心が高まっている。そのような団塊の世代が地方に帰ってくれば、その子供たちの関心も地方に向くのではないか。都会への一極集中から、地方に分散していく時代に入っていくと思う。

また、病院の集約化も必要だが、救急医療に耐えうる、一時間以内に通いうる病院の存続という形をベースに考えていく必要があるだろう。

民主党の医療政策 -その理念
最後に、民主党は医療政策において何を一番大切にするのか、その理念について述べたい。実際に医療崩壊を迎えたイギリスのブレア首相が出した大きなメッセージは、彼が最初にプランを発表したときの「他の改革がうまくいかなくても、医療と教育の改革だけは成功させる」という強いメッセージだった。これは日本にも共通するメッセージであり、民主党も同じ思いを強く抱いている。

■ディスカッション
●小野崎
民主党の医療政策は現在まさに検討のプロセスにある。これまでの話を聞いた上で、質問はもちろんのこと、政策に対する提言なども含めて、ぜひこの機会にご発言頂きたい。

●会場から
新しい法律を作ることも大切だが、何より既存の古い法律を変える必要があるのではないか。制定されてから既に長い時間が経過している医療法・医師法・薬事法・健康保険法などの改革の議論はどうなっているのか。

●足立氏
その通りだと思う。全ての法律が古いのは事実だ。本日、民主党で考えている5つくらいの法律の話をさせて頂いたが、その一つ一つはまったくの新法ではなく、現存の法改正をベースとしている。一方、個別の法律の小さな改正ポイントを示すだけでは世論に理解されにくいので、今後進んでいく大きな方向性を分かりやすく見せなければならない。まずはマニフェストで政策や法制度の大きな方向を示し、その後に法改正の詳細を示していこうと考えている。

●会場から
医師の数を増やすという議論があったが、単に人数を増やすだけではなく、同時に給与などの待遇改善も行う必要があるのではないか。

●足立氏
外科医である私は自分の経験に照らしても大いに問題だと思っている。職種別の一時間あたりの単価の比較をすると、研修医1760円、医学部教授1690円、若手医師1449円、普通の大学教授4566円、高校教員2780円、記者2349円となっており、医師の労働時間とその対価に大きな乖離がある事を示している。また、開業医と勤務医の収入を、購買力平価のドル換算で比較すると、日本は勤務医10万ドル、開業医24万ドルで、2倍以上の開きがある。しかし、他の国は勤務医のほうが開業医より高く、アメリカは勤務医17万ドル、開業医15万ドル、イギリスは勤務医15万ドルと開業医12万ドルとなっている。このような日本の医師の給与体系は変えていく必要があるだろう。

●会場から
医療費をはじめ、国民の健康にかかるコストを健全な状態に保つ方策をどうしたらよいか?お考えをお聞かせ頂きたい。

●足立氏
たとえば医薬品・医療機器を例に挙げると、ラグの問題もさることながら、中間マージンの高さが大きな問題となっている。多くの仲介人が入ってしまうことでコストがかさんでいる現状がある。また、アメリカから輸入している医療機器において、韓国は日本の半分のコストですんでいるという状況も問題視されている。価格設定を輸出国側に握られている現状を打開しなければならない。

b0144534_16215317.jpg●会場から
医療政策の決定プロセスにおける市民の参画は極めて重要だと思う。いかに市民の参加度合いを担保していくかという視点で考えをお聞かせ願いたい。

●足立氏
その通りだと思う。まず、与党が出す議員立法においては「法律を成立させること」が目的化していることが大きな問題だ。また、法律が成立した直後から、与党議員が「こんな法律だったとは思わなかった」と言い始めたケースもある。つまり、彼らは自分たちの出す法案と現実の間にある「隙間」を理解していないのだ。その隙間を埋めるためにも、国会に提出する前段階で現場の当事者の話を聞くプロセスが不可欠だ。法案を机上の空論にしないために、立案段階で現場の意見を取り入れ、何度も現場のチェックを入れていく姿勢が大事になるだろう。そのような形で我々民主党も提言・提案をまとめていきたいと思う。

●黒川 清 (日本医療政策機構代表理事) 挨拶
今日の話を聞いて、政策の中身はもちろんのこと、政策立案のプロセスの重要性をみんなが感じたことだろう。こういう場で議論することが何より大切だ。先日John. F. Kennedyのスピーチライターを務めていた人と話をする機会があり、その時に政治のリーダーシップとは何かを考えた。民主主義のプロセスにおいて、どういう責任をもって、言葉を発しているのかが重要なのである。勿論現場を知っていることも大事だ。日本の国民の多くは、プロセスを頭の中に全く入れておらず、戦後の日本では制度は民主主義だったが、頭の中は民主主義になってなかったのだ。瑣末な意見に集中するのではなく、大きなビジョンに向かって動いてみて、修正も加えながら、みんなで力を合わせていくプロセスを浸透させなければならない。そのために、現在役所だけが持っている一次データを国民に公開し、オープンな場で政策を議論し、そして多様な選択肢を与えることが必要とされるだろう。日本医療政策機構の使命はそこにある。

■関連記事■
2008年政党インタビュー「山田正彦氏」
2007年政党インタビュー「三井辨雄氏」
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by hpij | 2008-07-15 10:07 | 医療政策関連
第1回メディアワークショップ開催
先般、ジャーナリスト限定企画として、「メディアワークショップ」を開催いたしました。
後期高齢者医療制度、医師不足や救急医療、そして医療財源の確保など、わが国の医療政策は大きな転換期を迎えています。このような中、非営利中立の医療政策シンクタンクである日本医療政策機構は、国内外の医療政策の最新情報や必須知識を、報道の最前線でご活躍されているジャーナリストの方々と学ぶべくワークショップシリーズを開催することとなりました。第1回目は、2008年6月2日(月)に都内ホテルで開催され、テレビ、新聞、専門出版社など数10社から66名が参加、会場は満席となりました。

b0144534_16412762.jpg■当日のプログラム■
■第一部
記念講演 
黒川 清 日本医療政策機構代表理事
■第二部
記者発表
・「2008年日本の医療世論調査」
・「日本医療政策機構メディアワークショップ」今後の活動予定


b0144534_1643647.jpg第一部では「医療政策とメディア」と題して、当機構代表理事の黒川清による講演が行われました。わが国のメディアや報道の現状、そして今後の課題などに関する問題提起を行った上で、参加したジャーナリストの方々と活発な議論が展開されました。



b0144534_165397.jpg第二部では、当機構の小野崎より「2008年日本の医療世論調査の概要」の報告が行われ、医師不足と負担増、経済力による受診行動などの調査結果が注目を集めました。また、専門家を交えた勉強会や医療政策ハンドブックの作成など、メディアワークショップにおける今後の活動予定の素案が紹介されました。

日本医療政策機構では、当日実施した参加者アンケートの結果なども踏まえて、医療政策の基本論点や専門家一覧などをまとめた「医療政策ハンドブック」の作成や、医療政策の専門家による勉強会の開催などを行っていく予定です。今後の活動にもぜひご期待下さい。

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2008年日本の医療世論調査
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by hpij | 2008-07-07 16:15 | 医療政策関連
第1回朝食討論会 「医療政策の緊急課題」報告
2008年6月2日、日本医療政策機構は、都内ホテルにおいて朝食討論会「医療政策の緊急課題」を開催した。この朝食討論会は医療政策決定に携わる与野党のリーダーの方に、医療政策の重要課題についてお話し頂きディスカッションを行うもので、第1回目となる今回は、自由民主党厚生労働委員長の衛藤晟一参議院議員を講師にお招きして開催、当機構の法人会員企業トップ、理事、相談役などの参加のもと、活発な議論が展開された。

b0144534_1762389.jpg■緊急討論「医療政策の緊急課題」

・日時:2008年6月2日(月) 午前8時-9時

・スピーカー:
衛藤 晟一 氏 参議院議員
自由民主党厚生労働部会長
参議院厚生労働委員会筆頭理事
元厚生労働副大臣

・ファシリテーター:
小野崎 耕平 (日本医療政策機構)



■概要
●小野崎(日本医療政策機構)
衛藤氏は大分市議、大分県議などを経て90年に衆議院議員に初当選、以来衆院4期、参院1期を務められ、一貫して障害者福祉や年金・医療などの社会保障分野に取り組み、自民党社会部会長、衆議院厚生労働委員長、厚生労働副大臣などを歴任されてきた。また、北朝鮮拉致問題や教育基本法改正の中心的人物としても知られている。現在は自民党厚生労働部会長として与党および参議員での厚生労働分野のリーダーとして活躍されている。本日は、話題になっている毎年2200億円の社会保障費の伸びの抑制方針などの医療財源論、後期高齢者医療制度などの最近の緊急課題についてお話し頂き、皆さんとディスカッションを行いたい。

●衛藤氏
ちょうど今、後期高齢者医療制度の廃止法案がでており参議院で審議入りする。後期高齢者医療制度に対する反応を見ていると、我々日本人が少子高齢化社会に対する認識の甘さがあるのではないかと思うこともある。財源をどうしようという議論が出てこない。消費税はとんでもない、となると財源が手詰まりになる。財源が手詰まりということは、政策が手詰まりということだ。

典型的な例が年金である。基礎年金をすべて税金でまかなおうという意見は一見分かりやすいが、税が年金に使われることで医療、介護、障害者福祉などにも影響してしまう。今後、医療や介護に必要な財源が大幅に増加する中、それを全部保険料で吸収できるかというと、それはできない。やはり新たな財源、消費税ということになる。いま、社会保障だけではなく、国の形をどうするかという岐路に立っている。b0144534_17114354.jpg

医療費35兆円のうちの給付29兆円を年代別に内訳をみると、次ぎのようになる。まず、0歳から64歳が人口1億人で医療費給付13兆円、つまり1人当たり13万円となる。65歳から74歳の前期高齢者は1400万人で総額5.2兆円、1人あたり37万円。75歳以上の後期高齢者は1300万人、人口の1%強総額10.8兆円、一人あたり82万円くらい。やはり75歳以上は病気になる可能性が高まるし医療費もかかる。これまで老人保健制度(老健制度)だった75歳から上に対して、今回から新制度にした。制度を決めるにあたっては、完全一元化など様々な案があったが、今回の制度はいわゆる「独立型」で、医師会、健保連、経団連などが支持していたものだ。若い人の負担にも限界がある。ほかの制度だと若い世代の負担が大きく増えるという問題があった。

よく「姥捨て山」と叱られるが、75歳以上を独立させたということは、税金で見る決意をしたということだ。税金で5割、残り5割の保険料のうち本人の保険料がちょうど1割、残り4割が現役世代からの負担である拠出金でまかなう。

●小野崎
たとえば世代間の負担をどうするのか。いま医療政策において日本国は大きな岐路に立っていると思う。しかし、医療が政局になってしまったがために、医師不足や救急医療、さらに財源論や負担と給付の関係をどうするかなど本来の議論が見えにくくなってしまった。特に財源論について、今日、会場にいるみなさんは社会保障費の伸びを毎年2200億円削減するという方針をどうするのか関心が高いと思うが、この点はどうか?

●衛藤氏
平成6年、当時3党連立で村山内閣が成立した頃に少子高齢化への取り組みが本格化した。少子高齢化を乗り切るためにいくらかかるのか試算をしたところ、毎年9000億円伸びると予測された。それまで社会保障に対する国庫負担を増やし続けてきたが、このままではもたないということで毎年7000億円くらいの伸びに抑えようということになった。それでも当初はまだ絞るところがあった。しかし最近は、いよいよ乾いたタオルを絞るような状態になってきた。また、度重なる制度改革により伸びも鈍化し、平成19年くらいの伸びは7000億円台になっている。にもかかわらず2200億円の削減を続けてきたことで、いよいよ持たなくなってきた。我々のように社会保障にタッチしている者としては、もう持たないという認識でいる。一方で、2200億円を止めるということは財政再建をあきらめるということにもつながる。平成21年にプライマリーバランスをゼロにするという目標も崩れるということで、政府としては痛しかゆしの状態だ。

●小野崎
先週、自民党厚生労働部会、社会保障制度調査会など3部会で2200億円抑制の撤回を求める決議を出されたが、見通しはどうか?

●衛藤氏
2200億円の単純な絞り込みは全くできない。これが医師不足などを招いてきた。補正予算などで何とか対応すべきだ。また、平成14、16、18年と3回連続で診療報酬のマイナス改定をしてきたことで、医療現場の先生方には非常に厳しい状況になってきた。そこで我々は昨年の暮れから財務省と激しくやりあってきた。財務省はどんなことがあってもマイナス改定の0.2%減を主張したが、まずは何とか0.2%増に持ち込んだ。そして社会保障制度調査会長の鈴木俊一衆院議員らとともに、最終的にトータルで0.38%のプラス、医療だけでみるとプラス0.42%に持ち込んだ。

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(会場からの質問)
●質問:
財源を確保することを考えると消費税に行きつくと思う。しかし、そこにいきつくまでに、本当に医療の無駄がないのか、どのようにそれを改善するのか、それをどう評価し納得を得るのか、ご教示頂きたい。

●衛藤氏
よく言われてきた医療費の無駄の代表は薬だった。ただもうこれ以上削れないというところに来ている。飲まれずに捨てられているというような無駄はあるだろうが、薬価を削るというのは、もう切り込めないところまで来ているのではないか。これまでは診療報酬を抑えることで医療費を抑えてきたが、それも限界に来ている。ほかには検査の過剰や重複などはあるだろう。後期高齢者医療制度でも、一部かかりつけ医の制度を導入するなどしているが、重複などによる明らかな無駄は減らすようにしないといけない。

しかし、無駄の削減は、大きな税収に代わるほど大きなものになるとは到底思えない。会計検査院のチェックでも霞が関全て合わせても600億から1000億円であり、これをさらに厳しくやったとしても限界がある。特別会計を切り崩すというのも1回だけのことであり、安定的な財源を確保することにはならない。また、これ以上若い人の保険料負担を増やすわけにいかないし、高齢者の負担をこれ以上増やすわけにもいかない。そういう点でも、今後は税投入しかないということになるが、所得税や法人税の増税は難しい。そうすると、やはり消費税議論になる。しかし国民の理解を得るのが難しい。

●会場から:
日本の医療の特徴として、ファイナンスする方、つまり保険などについては様々なルールがあるが、患者のアクセスについてはかなりオープンだという点が挙げられる。保険証を持っていればどこにでも行けるという制度にも限界があるのではないか。日本人がもう少し病院に頼らないで済むようにしていく必要があるのではないか。また、医療費増加分のかなりの部分は、技術革新・イノベーションによるものだ。現在の財政削減一辺倒の路線を続けることは、イノベーションを抑えるということになり、新しい発見や技術が出にくくなる。これが国民にとって良いのか。このような視点もいるように思う。

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●会場から:
私は、かつて厚生労働省にいたが、その経験も踏まえて考えると、やはり政策決定プロセスに問題があると思う。後期高齢者医療制度でもそうだが、政策決定プロセスに官僚や専門家しか入っていない。これからは、患者や市民の代表など入って、負担と給付の問題も含めて議論し、合意形成していくことが重要だ。このような政策決定プロセスについても、特に与党で検討頂きたい。

●衛藤氏
その通りだ。ちなみに、自民党の部会などにおける政策決定は「NOという人がゼロなら了解とみなす。しかし反対意見が出れば最後まで議論をする」というものだ。今回の後期高齢者医療制度は検討の際に最後まで徹底して議論するという点が少し足りなかったのではないか。

余談だが、テレビタックルの番組収録で、後期高齢者について討論した最後の最後に、たけしさんが「やっぱり高齢者から保険料もらうのはおかしいよ」と言ったが・・・これが一番痛かった(笑)。そこで、たけしさんにも「負担の議論を止めると、大切な医療も介護保険も根本から持たなくなるんですよ」ということを申し上げた。こういうことを、皆さんにきちんと理解してもらわなければならない。
(終了)

●黒川 清 挨拶
このような会は何のためにやっているか。日本の政策というのは、各省庁が自分たちの省庁に都合のよい政策しか出さないという傾向がある。もちろん省庁は一生懸命やっているのだが限界もある。それを変えていくのが政治の役目だが、やはり何といっても大切なのが国民だ。お上任せではなく、市民自らが政策を議論する場がまだ日本には育っていない、つまりシビル・ソサエティー(市民社会)になっていないのだ。だから、我々は今日のような場を設けて、政治家の方も巻き込んで、議論をしているし、これからも続けていきたい。

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by hpij | 2008-07-03 16:53 | 医療政策関連
第17回定例朝食会-福井次矢先生がご講演
7月10日(木)に第17回定例朝食会を開催いたします。

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今回は聖路加国際病院の福井次矢先生に、「『医療の質』を測る」をテーマにご講演いただきます。(言語は日本語のみ)
福井先生は聖路加国際病院において、Quality Indicatorによる医療の質の測定・向上の取り組みをリードし、それらを集大成した書籍を出版され、大きな話題を呼んでおります。聖路加国際病院理事長の日野原先生もその取組み「わが国の医療の質向上への起爆剤」になると評されておられます。
この朝食会はどなたでもご参加いただけます!今現在すでに多くの方にお申込頂いており、残席わずかです。ぜひふるってお申込下さい。

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■第17回定例朝食会お申込ページ
■福井次矢監修 『「医療の質」を測る』

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by hpij | 2008-06-20 18:22 | 医療政策関連