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【緊急提言】第9回「患者参画の医療政策決定を!」
b0144534_1620749.jpg衆議院の解散・総選挙で重要な争点のひとつと考えられる医療政策をテーマに、当機構は医療政策のキーパーソンの方々に「医療政策―新政権への緊急提言」と題したインタビューを行っています。

日本医療政策機構理事
日本医療政策機構市民医療協議会協同議長
がん政策情報センター長
埴岡 健一

b0144534_11271615.jpg9回目となる今回は、当機構の理事で、がん政策情報センター長でもある埴岡健一に話を聞きました。
 
インタビューは、下記共通質問項目に沿って行われています。

<質問項目>
1.医療政策における重要課題、政党がマニフェストに盛り込むべきと考える課題は?
2.課題解決を実現するための財源確保の方法は?
3.課題解決のためにご自身が行っている、あるいは行おうとしていることをお聞かせください。
4.日本医療政策機構の今後の抱負は?
*今回だけは当機構理事ですので、いつもの「日本医療政策機構への期待やアドバイスを」の質問を上記に変更しています。
5.我が国の医療政策に必要な、もっとも重要なキーワードなどを「ひとこと」で示してください。



1.医療政策における重要課題、政党がマニフェストに盛り込むべきと考える課題は?

医療基本法成立

日本の医療における最大の問題は、制度が“パッチワーク”状態である点。医療システム全体をどう組み立てるかのグランドデザイン不在の制度が機能不全に陥るのは当然で、グランドデザイン不在の議論が不毛な各論の応酬となるのもまた然りだ。

グランドデザインなきがゆえに医療政策決定には、医療の主役である国民不在の議論がまかりとおり、大枠を決めた後にアリバイづくり程度に意見を聞く手法となる。国民に危機意識がなかった時代なら通用したかもしれないが、現状ではそのようなやり方は許されず、実行段階になってから破綻することは、後期高齢者医療制度の成り行きでも明白だろう。

今こそ必要なのは、医療のグランドデザインを規定した医療基本法である。忘れてならないのは、医療基本法制定の議論が特定のステークホルダーだけで行われてはならないこと。国民代表を参加させ、十分な議論を尽くして成立させるべきだ。

医療政策国民会議(仮称)創設

医療基本法にはいくつかの柱が考えられるが、中でも特に欠いてならないのが、医療政策に関する国民会議的機関の政府への創設。各立場を代表するマルチステークホルダーのメンバーにより、国民のコンセンサスとして政策決定する場、仮に名づけるなら「医療政策国民会議」を設けるのである。

カギとなるのは、患者代表参加の恒常化だ。現行の政府の医療分野における審議会などは医療がどうあるべきか、どのように資源配分をするかというところから議論できず、すでに決まった枠組みの中での議論しかできない側面が強い。

患者代表の参加した議論の有効性は、がん対策基本法の成立とその後のがん計画の策定過程によって証明された。患者の意見が反映されることによって国の議論が活発になり、ついには都道府県にまで波及する。そして、実効性のある政策提言を行うことができる患者や市民の立場の委員が都道府県レベルで育つ。このような現象は、医療政策を推進させる大きな原動力となり、結局のところ行政も政治家も、医療界もハッピー。もちろん、市民の幸福にもつながり、三者間にWin-Winの関係が成立することが実証されつつある。同様の手法は、他の医療分野においても成功をもたらすと確信する。

医療の質の測定

患者や国民が政策決定に参加する際には、公開され共有されたデータをもとにした議論が欠かせない。現状にどんな欠点があるのか、事実認識から意見が違っていては、議論が前に進むはずはない。何をめざすのか具体的に示す羅針盤が個々に違っては、迷走が生まれるだけ。とにかく医療の質を測って状況を比較するベンチマーキングが必要だ。

すでに欧米では、国民的に認知されたベンチマーキングをもとに現状を分析し、将来の目標値を定める取り組みが進んでいる。だが、日本はこの点では、未だはかばかしい動きはない。また、たとえば今、医師不足問題について「数が足りないのか、偏在なのか」との議論があるが、各地の医師などの資源数、疾病数、医療の質の現状といった基礎データに基づいたベンチマーキングなしで医師などの数を増やしても、偏在をさらに助長するだけで、医療従事者の労働条件の改善や医療の質の向上につながらない結果に終わるだろう。

ちなみに日本では、2003年にDPC(診断群分類包括評価)が導入され、多くの病院の診療行為のデータが集計し厚生労働省に提出されている。このデータがすぐれたベンチマークになる可能性を秘めている。現状では、医療コスト削減ツールとの認識が先行しているが、本来は医療の質を測る道具として大きな潜在力を持っているツールだ。日本の医療の質計測は欧米から2周、3周遅れてしまったが、DPCデータの活用次第では遅れを取り戻せる可能性もある。

医療の質・監視システムの構築

広い範囲で医療の質が測れるようになれば、医療の質が向上し、医療の安全性も向上し、無駄な医療費も削減できる。それぞれどの程度の改善を達成するかの目標も立てられるようになるだろう。そこで、提言したいのは、医療費の1%――総医療費35兆円なら3500億円――を予算にして運営する、医療の質・監視システムの構築である。この規模の予算があれば、公的な「医療の質安全局」のような組織もつくることができるだろう。

すでに欧米には、そうした機関が設置されている。たとえば、米国の政府機関である「医療研究品質局(Agency for Healthcare Research and Quality:AHRQ)」は、患者の安全と質の向上とって有効で科学的な情報を集積する。英国にも、臨床ガイドラインの制定や標準治療順守率の向上促進に取り組む「国立保健医療技術評価機構(National Institute for Health and Clinical Excellence:NICE)」や、インシデント情報を収集して事故予防策を普及させている「国立患者安全機構(National Patients Safty Agency: NPSA)」などがある。

3500億円もの予算を投じる必要があるのかとの異論もあろう。しかし、結局は医療全体の劇的な効率化をもたらすシステムになるに違いない。

コールセンターの設置

国民は、健康に関してさまざまな不安を抱え、医療制度について多くの疑問も持っている。これまでは、質問や疑問を投げかけるところもなく、それが医療不信を深めてきた側面が大いにある。国民には、365日24時間、電話で相談し、意見を述べる場が必要だ。

もちろんセンターへの連絡方法にインターネットを加えてもいい。より利用しやすいシステムになるだろう。健康不安へのカウンセリングは、国民の健康教育になる。相談員やピアサポーターもたくさん育成する。医療制度への不満を述べる機会を与えることは、医療への国民参加を促すことでもある。

英国では「患者国民参加(Patient and Public Involvement :PPI)」という考えのもと、英国国立保健サービス「National Health Service:NHS)の病院運営に患者・市民代表の参加が義務付けられている。また、NHSダイレクトと称するコールセンターが稼働、電話による医療相談などを受け付けている。NICEがガイドラインの情報提供をしていることと相乗効果を生んでいるそうだ。

英国を参考にし、まず官主導でコールセンターと不随する情報提供システムをスタートさせ、軌道に乗った後に民営化する。そのような手順が理想的だろう。

2.課題解決を実現するための財源確保の方法は?

保険料

患者会の集まりなどで、「医療の質の向上がそれで実現されるならば、保険料の50%増や消費税の10%への引き上げに賛成し、自分の負担増を受け入れるか」とよく質問する。いつも、参加者の9割が賛成を表明する。患者は医療費の拡大に大いに賛成である。では、拡大の財源は税金か保険料か。個人的な見解だが、私は、2つの理由で保険料を主体とすべきと考える。

まず、税金を上げても社会保障に回る保証がない。社会保障に充てられても年金中心となって医療には回らない可能性が強い。

次に、税金で医療費をまかなうのでは、自分の負担と医療サービスの給付を結びつけて考えにくく、医療に関する国民の自覚を促せない。健康保険に関し、保険料を払っている国民の「おらが保険」「自分たちの相互扶助システム」という意識を高めることが重要だ。そのためには財源は保険料を中心とし、自分たちの健康保険がどんな財政でどのように使われているか、分かるような情報を提供することが大切だ。

保険料引き上げには、国民の納得を得ることが前提だが、現状の保険運営は不透明でわかりづらい。国民参加によって改善することがきわめて重要となる。そのためには、健康保険の運営を保険料を納めている加入者や患者が主導となるようにすることが欠かせない。国民は健康保険システムの当事者の中で「被保険者」と呼ばれるが、そのような概念も変えるべき。保険でカバーされている人である前に、保険料を払うという保険システムのオーナー的な立場にあるはずだ。また、保険によって提供される医療サービスの顧客の立場にもある。保険は患者のもの、国民のものであるといった意識を芽生えさせることが、負担と給付の問題を解決するための、遠い道のりのようで結局は一番の近道ではないか。もちろん、負担力がない人への対応は別途必要となる。

「医療の質の問題や、医療費の無駄がこれだけある。一方で必要な医療資源と費用はこれだけ。それを実現すれば、どれだけの改善ができる。だから、医療費を増やしてそれを実行させてほしい」。医療界が、そのように真摯に訴えれば国民は聞く耳を持っている。今のように、「医療の内実ははっきり見せない。でも、足りないのだからお金がほしい」というスタンスでは、広い国民からの納得が得にくいだろう。

3.課題解決のためにご自身が行っている、あるいは行おうとしていることをお聞かせください。

がん対策でモデルづくりを

まず、がんをテーマにさまざまな施策を実現すべく取り組んでいる。たとえば、がん政策情報センタープロジェクト。がん治療の地域格差や医療機関による治療レベルの格差の存在を明らかにし、格差解消のための好事例、ベストプラクティスを共有し、医療改革に取り組む熱心な人々の人的ネットワークを形成すれば、均てん化(どこでも高いレベルの医療が提供される)が図れるだろう。また、各都道府県で政策提言をする患者関係者、すなわち「がん患者アドボケート」の育成を支援している。こうしたアドボケートが各地の対策の活性化の起爆剤となりつつある。がん分野のモデルをきっかけに、ほかの疾病においても同様な活動が起きてくれればと期待している。

患者の声を政策に反映させる仕組みづくり

2007年9月からの助走期間を経て2008年7月に「患者の声を医療政策決定に反映させるあり方協議会」が、10の患者会を中心に作られた。疾病横断的な患者団体が緩やかに連携する場と位置づけている。英国では、慢性疾患の患者会を横断的にまとめた組織があり、患者約1700万人を束ねていると標ぼうし、医療政策に関する提言をし、政策決定にも強い影響力を持っていると聞く。日本でも、同様の組織ができればすばらしいことだと思う。日本医療政策機構の市民医療協議会もこの趣旨に賛同して設立メンバーとなっており、私は初代の事務局長を務めている。

医療政策立案にかかわれる人材育成

4年前に、東京大学に「東京大学医療政策人材養成講座(HSP)」が設けられた。マルチステークホルダーが一緒に医療政策の提言を作成することで、政策立案プロセスにかかわることができる人材の育成を目的としている。私は立ち上げ期からのスタッフだ。医療従事者、患者支援者、政策立案者、メディアなどの異なるステークホルダーが集まり、共に質の高い政策提言や医療改革の実践をする人々が、この場をきっかけにたくさん育ってきていると感じている。

医療改革推進に向けた民間基金の育成

国や地方自治体は、地域の医療計画を実施し、医療の均てん化を実現するため、優先的に予算を配分すべきだ。一方で、こうした公的な資金とは別に、医療改革を促進するための民間の資金プールも必要だ。ファンドレイジング(資金調達)で寄付などを集め、地域の医療対策に資金を投入していくという発想が大事になってくる。そして、その資金によって患者・市民、行政、医療施設・医療従事者、県議会議員・市議会議員、地元メディアなどが協力してプロジェクトに取り組んでいく…。

日本医療政策機構の市民医療協議会としてもそうしたことに取り組んでいきたい。また、各地で地元のための医療対策基金が設置され、資金規模が5億円、10億円と育っていけば、現在の地方自治体の医療対策予算の規模に比べてもそん色ない大きさとなってきて、地域医療を大きく変える可能性が出てくる。

自分たちの医療を行政に任せきりにせず、あえてみんなで資金を集め、政策の立案と実行に声も出して汗もかく。そういう中から生まれた成功事例は、これまでとはまったく違う医療政策のあり方を示すはず。

4.日本医療政策機構の今後の抱負は?

第2フェーズへ向けた活動の拡大

当機構も誕生して4年がたち、そろそろ第2フェーズに入る時期。医療に関する民間シンクタンクへの期待と役割は大きいが、まだまだその役割を十分に果たしてはいない。もっと、さまざまなプロジェクトが実施できる人材と資金などを集め、組織を充実し、掲げたミッションに則して積極的な活動を行って結果を出していかねばならない。成長の過程では、多少の失敗や学習も予想されるが、前向きに進むことが必要な段階だと認識している。

目標の設定と達成度の評価
 
「政策は戦略的に立てるべき」、「政策は評価されなければならない」。われわれが行政向けに常々発するこうした言葉は、自分たちにも向けられる。われわれ自体が目標をもっと明らかにし、戦略的にそれを達成する活動をし、評価が可能な方法で成果を説明しなければ、行政の医療政策を批評する資格が疑われかねない。

やっている活動とその結果をもっと分かりやすく説明し、支援してくださる方々にも納得し喜んでいただくことで、さらに支援者を増やしていきたい。

5.我が国の医療政策に必要な、もっとも重要なキーワードなどを「ひとこと」で示してください。

患者参画の医療政策決定を!b0144534_11373429.jpg

先に、患者会メンバーなどは、「医療の充実のために保険料の50%増や消費税の10%への引き上げ」に9割が賛成を表明すると述べた。医療者の集まりで同様の質問をすると、やはり9割が賛成する。ところが、新聞などの世論調査では、同様の質問への賛成は非常に少ない。


つまり、世論を前にすれば、患者も医療者も等しくマイノリティなのである。前者は疾病に苦しみ、医療制度の不備に苦しんだ経験から。後者は医療の現場にさまざまな矛盾があると、知るがゆえ。いずれも、経験から負担と給付に関する政策転換が必要だと認識し、大多数の国民の無関心に頭を抱えているという共通性がある。社会のステークホルダーの中で、もっとも似た基本方針を描くセクター同士といえるかも知れない。この両者がもっと協力・連携して、提言を発信しなければ医療は変わらない。その際、なかでも特に患者の役割が大きいと、私は考えている。

患者委員が積極的に発言している審議会や検討会を見ていて感じることがある。医療界や行政などのセクターを背景にしたメンバーは、出身母体の利害に関する発言が多くなる。また、パイの奪い合いの発想が強いと感じることもある。一方で、患者・市民の立場の委員は、問題解決と目標達成のために、包括的な提言をすることが多い。また、医療資源を増やす可能性はないかと、議論はパイそのものにも及ぶ。議論全体を目的などの基礎から包括的にし、かつ具体論も結果の実現性などの視点を踏まえている。会議の議論の方向と整理をリードしていると思えるときが少なくない。

政府や役人や医療従事者の言葉を信用しない国民も、患者の発言には耳を傾けやすいだろう。患者が家族に、さらにはコミュニティのメンバーに、自己の体験に基づいてあるべき医療政策を話して聞かせる行為は、地道ながら社会の医療への意識を向上させるには、もっとも効果的な手法だと思う。

医療についての議論への国民の関心を高め、医療に関する制度づくりに国民を参加させる鍵は、患者が握っている。その意味において、行政は医療政策決定の場に患者を参画させるべきだ。それが、結果的には政策の決定事項に対する国民の合意と納得につながるし、閉塞感が漂う医療分野において斬新な政策が実現できる道筋なのだ。

■略歴
埴岡健一
1984年、大阪大学文学部卒業。1987年、日経BP社(現)入社、日経ビジネス編集部記者、92年日経BPビジネスニューヨーク特派員、94年ニューヨーク支局長、98年日経ビジネス副編集長と、経済・経営ジャーナリストとして記事を執筆する。99年骨髄移植推進財団(骨髄バンク)事務局長となり、医療システム改革に取り組んだ。03年7月日経メディカル記者、04年7月同編集委員。がん患者支援サイト「がんナビ」の編集長も務めた。04年8月東京大学医療政策人材養成講座特任准教授、日本医療政策機構理事。07年4月、がん対策推進協議会委員となり、がん対策戦略策定に参加。08年10月、全国健康保険協会運営委員会委員。

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「緊急提言」シリーズはあらゆる分野の方々に幅広いご意見を伺うこととしております。当シリーズでインタビューにお答え頂いた方のご意見は、必ずしも当機構の見解を代表するものではございません。
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by hpij | 2009-01-16 16:46 | 新政権への緊急提言
【緊急提言】第8回「医師は被害者意識を捨てよ」
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その時期が注目されている衆議院の解散・総選挙にあって、最大の争点と考えられるのが医療政策。当機構では日本の医療政策のキーパーソンに「医療政策―新政権への緊急提言」と題したインタビューを行っています。

九州大学大学院医学研究院医療システム学分野教授
信友 浩一氏

b0144534_1020755.jpg第8回にご登場いただくのは、九州大学大学院医学研究院医療システム学分野教授の信友浩一氏。全国でも数少ない医療政策や医療マネジメントの専門大学院で数多くの人材を輩出してきただけでなく、全国各地の自治体の政策や医療機関の経営戦略立案などを多数手がけておられます。
 
インタビューは、下記質問項目に沿って行われました。

<質問項目>
1.医療政策における重要課題、そして課題解決の方法などについてお聞かせください。
2.医療政策課題にまつわる5つのキーワードを教えてください。
3.課題解決を実現するための財源確保の方法は?
4.課題解決のためにご自身が行っている、あるいは行おうとしていることをお聞かせください。
5.我が国の医療政策に必要な、もっとも重要なキーワードなどを「ひとこと」で示してください。



1.医療政策における重要課題、そして課題解決の方法などについてお聞かせください。

議論の大きな枠組みを考えよ

政策を論議するときに、前提、あるいは議論の枠組みがないので、さまざまな関係者が、みな自分にとって都合のいい話ばかりをしているような印象がある。たとえば、医療崩壊は医師が足りないから、つまり量の問題だと言う。そういう発想自体が、「私は、今のままでいい」ということにつながりかねず、思考停止を招くのではないか。量が増えたとしてもシステムを変えなければ、単に医学部の教授が喜ぶだけ。将棋の駒が増えるだけで、結局、何も変わらない。

国と地方の役割分担
 
医療という生活にきわめて密着した公共サービスの枠組みには、国が担う部分と地方・現場が担う部分との2つがある。医療は、医師がいなければ成立しない。したがって、医療に関して国が担う部分は、医師の質を保障するための医学部教育と国家試験。そして、量のコントロール。これらは、本来的に国が担うことだ。

地方・現場が担うことは、住民にとって納得のいく医療提供を受けられるよう、政策を総合的に調整することだろう。

2.医療政策課題にまつわる5つのキーワードを教えてください。

①医師は応召義務を果たしていない

医療問題にまつわるひとつ目のキーワードは、医師の応召義務。医師は、医療業務を独占している。独占しているのだから、必ず義務も出てくる。それが、応召義務。たとえば電力会社は、すべての国民に電力を供給しなければならない。その代わりに、地域の電力供給を独占できる権限が付与されている。つまり権利と義務を、同時に持っているのだ。へき地だから電気を供給しない、儲からないから送らないというとはできないのである。医師は、医療業務を独占していながら、応召義務を果たしていない。これが医療のもっとも本質的な問題だ。

東京や奈良のたらい回し事件もそう。自分の施設が満床だったら断るということが、習慣化されてしまっているから起きる。「施設完結型医療」を前提にしているなら、応召義務も果たしてもらわなければ理にかなわない。

「いまあるもの」で何とかするのが医療だ

求められているのは「地域完結型」の医療。自分の病院で対応できなければ、ほかの病院が対応できないか探してみるべきだろう。医師が不足していようが多かろうが、今いる人員でどうにかする。それが医療の大原則である。

我々はエコーの検査、超音波による検査機器がないからといって、診断をさぼったりはしない。あるいは、血圧計がなく、血圧が測れないからといって何も手当しないなどということもない。そもそも医療は、今あるものでどうにかするものだ。「CTがないからできない」──ありえない。「満床だから」──そんな理由でなぜ診療を断っていい、なぜ、許されるのか。そんな習慣をつけたのは誰か。医師たる者が、業務を独占しながら、応召義務を果たさない。いつ、医師の神経は麻痺したのだろうか。

少なくても、私たちの世代、団塊の世代までは、そんなことはなかったと記憶ししている。何々がないからできませんなどと言ったら、上司からこっぴどく怒られた。「患者を見殺しにするのか!」と。そう叱咤する指導者もいなくなったのだろう。たぶん我々の10歳年下からの世代から、そういう習慣ができ上がっていった。そんな気がしている。

②医師は被害者意識を捨てよ

2つ目のキーワードは、被害者意識。こんなものがあったら絶対新しいものは生まれないし、元気になれない。阪神大震災があったときに、東部地区の灘や西灘ではすぐに自警団を組んで、ゴミを勝手に捨てるな、変なやつが来たら追い出せ――そんな自発的なコントロールがすぐにできたという。おそらく彼らに、被害者だとの意識がなかったからだ。たとえ、被災者ではあったとしても。

ところが、被害者意識を持っていた地域では、「いつゴミを取りに来るんだ」、「俺たちは被害者だ」――と訴えるばかりで、何も進まなかった。被災者ではなく、被害者だと言う。行政は何もしてくれないと言い、いまだもって自立できていない。被害者意識だけしかないから立ち直れないのだ。
医師も同じ。「私は悪くない。制度が悪い。被害者だ」――だからうまくいかない。「私たちは自らこれを変える。だから行政はこうしてくれ」というのが、本来のプロ集団でありネットワークであろう。

昨日、経営がうまくいっていない病院で、勤務医との間に次のようなやり取りがあった。「なぜ、君らの病院はうまくいかないんだ。時代にも適応していないし、必要な診療科のスクラップ・アンド・ビルドもできていないのは、なぜか?」、「院長が悪い」、「わかった。お前たちは悪くないというんだな。じゃあ院長をいかに辞めさせたらいいか、クーデターの起こし方を私が教えてやろう」、「結構ですよ」。これが典型的な例だろう。自分たちに当事者意識がまったくない。

発想を変えれば良い。誰が悪いかという犯人探しをしても意味はないのだ。発想を変えられないのに、発想を変えられる人の邪魔をするなと言いたい。発想を変えれば、世の中も変わる。

ヒエラルキーの中で育った医師は、二言目には「教授が」、「院長が」と言う。自分で考える癖をつけてこなかったせいだろう。

先ほども触れたが、当事者意識がないのは、医師だけではない。東京大学医療政策人材養成講座のグループが47都道府県知事に「救急医療体制はあなたの問題だと思いますか」というアンケートをしたら、「YES」回答をしたのは、たった2人の知事だけ。ほとんどの知事が、それは国の問題・担当部局だと答えたそうだ。
まず、知事に当事者意識がないことが、地域での最大の問題。私がお手伝いをしている地域の方々は、どなたも当事者意識を持っている。三重県のある院長は、市長や医師会長といっしょになって自ら100ヵ所くらいでタウンミーティングを行っていると聞く。要は、地域の問題についは、知事や市長などトップ自らが当事者意識を持って解決しようとしなければ何も始まらないのだ。

③数値と事実で議論を

3つ目は、フィギュア・アンド・ファクト、つまり数値と事実。何をどうしたらいいかを、データと事実のみで議論する。覚えやすいようにFFとでも呼ぶといいかもしれない。「足りない」などの感覚値ではなくて、そこにある医療資源をどのようにシステム化したらいいか、ネットワーク化したらいいかを、数値にもとづいて考えるべきだ。

三重県に例をとれば、ある県立病院の院長さんは、大学から脳神経外科医が引き揚げられたので、お隣りの伊勢市の病院の脳神経外科に患者を送っている。産婦人科も引き揚げられると、今度は同院の先生に来てもらった。つまり、その病院にとっての脳外科や産婦人科の医療は、伊勢まで含めた地域完結型医療となったのである。さらに、去年の夏には、中学生と高校生で医学部・歯学部・薬学部・看護学部等に行きたい者・行って入る者140名を集めて「サマー・メディカルスクール」という取り組みをし、そこで院長さんは、故郷で役に立ちたいという若者がまだまだいることを実感したと話していた。

重要なのは、地域の人による地域振興の気持ち。地域振興は地域の者が考えて、支えるしかないし、支えるべき。人間もいるし、情報交換もできる。そういう動きをつくるために首長には、話し合いの場、交わる場を設けていただきたい。

ある市長からも医師不足で困っていると相談を受け、対策に乗り出した。その市の場合は、まず、責任診療地区を設けた。マーケット調査をし、互いの病院が不足している診療科を補完し合うようにしたのだ。また、基幹病院である5つの病院国立、済生会、市立、社会保険病院と市民病院の院長に集まってもらい、診療科の再編成を行った。各病院には非常勤の雇用をやめ、常勤医で担える科のみを存続させ、存続できない科は、他の基幹病院にまわすことにしていただいた。
また、院長が派遣元の大学と交渉し、4人か5人はその大学の派遣でない医師を受け入れられる枠づくりをした。
数値と事実をもとに、適切なネットワークをつくれば、医師不足の問題もなんとかなるものだ。

④医師も弁護士型の専門家集団にすべき

そして4つ目は、臨床医のコントロール。今、医師は、その身分を生涯にわたって保証されている。一方で、目の前の患者及びコミュニティに対して適切に医療を行える感性や経験、そしてモラルがあるかなどは問われてはいない。

よく比較されるが、弁護士は司法試験という国家試験を通ったあと、自由にどこででも弁護士業務ができるかと言えば、できない。司法試験に合格したら司法研修所で共通の研修プログラムを受け、修了して、さらに47都道府県の弁護士会という業務統制型の専門職集団に所属することで、初めて弁護士実務ができる。

医師は、医師国家試験を通ったあと、共通の研修プログラムもなければ、どこかに所属しないと実務ができないという専門職集団に属す必要もなく、いわば野放図。この状況は、いかがなものだろうか。医師法を改正して、弁護士会と同じように業務統制型の専門職集団に属すよう義務づければ、医師のクオリティコントロールも、配分コントロールもできるようになるのではないだろうか。

⑤「医療理念法」を

5つ目は、医療理念法。そもそも医療とは何かという医療の理念法が、我が国にはない。「ああ、がんが話題になったからがん対策基本法をつくろう」、「自殺が多い?取り組みましょう」、「予防接種、ああ、そうしましょう」。私は、医療はなんぞやとの理念を明確にしなければならないと思う。そのうえで、医療提供のためのコストとリスクとベネフィット──コストは医療提供側、プロバイダーが負わないといけないリスクもある。同時に、患者さんが負わないといけないリスクもある。ベネフィットも、個人的なベネフィットと社会的なベネフィットがある――の配分をどうするかを決めるべきだ。

国がやるべきことは、医療理念法をつくることだろう。隣の韓国や台湾では口腔ケアの理念法ができたらしい。日本は近隣のアジア諸国よりも取り組みが遅れている。

国会や政党の法制審議能力を増強せよ

国会で法制審議にあたるスタッフが、きわめて少ない。政党も同様。だから議員立法をつくる力が弱いし、政府が出してきた政策の検証をする力もほぼない。

まずは、国会で法制審査をする人間を少なくとも今の10倍に増やすことが必要だと考える。政策を検証する内閣法制局に相当するような新たな組織を構築するのだ。そうすれば、その人間は議員の要請に応じて、国会、あるいは行政から出てきた基本データを検証し、政策の検証能力を高められるだろう。初めて政府には確かな政策の起案権が与えられ、国会に同意権を認められる。政策立案、政策評価ともに質が上がり、国が健全になっていくと思う。

3.課題解決を実現するための財源確保の方法は?

1970年代、高度経済成長が終わるまで、道路などのインフラをはじめ、数え切れないほどの公共サービスを行ってきた。低経済成長になった今、その公共サービスを誰の負担でやればいいのか。本来であれば、政治も政策も1970年代後半に大転換が必要だったのだ。

それまでの高度経済成長期の政治及び政策は、利益配分型の政治政策だった。税収増を誰がどういう理屈で分けていくか――。それが、1970年代の後半からコスト配分型の政治、そして政策に転換しなければならなくなった。しかし、政治家はコストを選挙民に負わせようとせず、子どもや孫に払わせようと決めた。
そういう政策選択をした当時の選挙民は、今の50代以上。自分の利益を子どもや孫に払わせるなどという厚かましい選択をしてきたのだから、すみませんと謝罪し、腹をくくって相続税なりで返済する決断をすべきだろう。それを消費税アップで自分たちが引き起こした財政難を補おうとは卑怯としか言いようがない。政治家も国民も己のしてきたことを反省してほしい。

4.課題解決のためにご自身が行っている、あるいは行おうとしていることをお聞かせください。

今、私が医療に関してできることは、とにかく知事に当事者意識を持ってもらい、周囲で活動を支援していくこと。医療を変えた、そんな地域を増やすこと。医師不足に関しても、どうにかなるのだとわかってくれば、日本全体が変わっていくだろう。まずは、現場主導で変わっている地域の存在を、どんどん紹介していきたいと思っている。

130年、ないしは戦後50年の医療を大転換するのはたいへんだが、5年ぐらいで一挙にやっていかないといけない。自民党は道州制を10年以内に敷くと言っているので、遅くとも10年以内にはすべきだろう。

明日からできること、5年間でやること、10年以内にやること――整理していけば、誰が何をしないといけないかも見えてくる。

5.我が国の医療政策に必要な、もっとも重要なキーワードなどを「ひとこと」で示してください。

「他人を信じなさい」
b0144534_10204821.jpgこれは主に医師に対するメッセージである。とにかく自分以外の他人を信じない――日本の医師の、最大の欠点だろう。かつて国鉄にいたとき、組織マネジメントのタブーとして「上位の者は下位の者の業務を代行してはいけない」というものがあった。駅長が助役の代わりをしたら、助役はいつまでも困ったら駅長に頼ってしまう。だから人を育てる、組織を育てるときには、上の者は下位の者の業務を代行してはいけない。手を出さないよう辛抱することが大事だ。

でも、医師は違う。できなかったら「どけっ」と言ってすぐ自分が手術してしまう。看護師が失敗すると「なんだ」と叱って、やはり自分でやってしまう。それで、医師はますます忙しくなる。人と組織を育てる発想がないから、他人を信じる力が医師にないから、自分が忙しくなってしまうのだ。

小学校、中学校、高校、大学と、周囲から「できる、できる」と言われて育ち、自分はできるという全能感を持ったまま現場に出る。だから、他人の力を借りるとか、自分の弱いところを出して助けてくれなどと言えない。人間の弱さへの共感もない。幅広い人間性に欠ける傾向にあるのだろう。

違う言葉で言えば、人間の弱いところ、不安だとか恐怖感、甘えを、医師はそのまま受け入れることができない。結局、「私がもっとやらないといけない」となってしまう。

もうひとつ例を挙げれば、「チーム医療」。「チーム医療だから私の言うことを聞け」と言う教授をよく見る。こういう医師は、チーム医療を野球からイメージしている。自分はチームの監督だから「私の言うことをきけ」とやる。そして、ファーストにはファーストの役割だけ果たせ、決してショートの役割などしなくていいと役割を限定してしまう。

ところが、たぶんチーム医療の本来の意味は、ラグビーのイメージだ。監督は観客席にいて戦いぶりを見る。フィールドにいる者に一応役割はあるけれども、要は自分で考えて、今の場の雰囲気を読んでプレイをする。場を読み自分のポジショニングを考えながら点を取りに行く、トライする。これが本来のチームだろう。医師の場合なら、今、それぞれが何をしないといけないかを読み取って医療をする。これが本来のチーム医療だ。しかし、日本の医師は、これができない。ラグビーをイメージしたチーム医療をすれば、今の少ない数の医師でも、医療はまだ十分にやれるに違いない。

■略歴■
信友 浩一 九州大学大学院医学研究院医療システム学分野教授
1971年九州大学医学部卒。九州大学医学部助手。78年医学博士。80年ハーバード大学大学院(公衆衛生学)卒業。82年国鉄中央保健管理所主任医長、88年厚生省を経て96年九州大学大学院医学研究院医療システム学分野教授。01年から04年まで九州大学医学部附属病院副病院長兼任。

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「緊急提言」シリーズはあらゆる分野の方々に幅広いご意見を伺うこととしております。当シリーズでインタビューにお答え頂いた方のご意見は、必ずしも当機構の見解を代表するものではございません。
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by hpij | 2008-12-18 10:20 | 新政権への緊急提言
【緊急提言】第7回「公的医療の範囲と負担、国民みんなで議論を」
b0144534_1620749.jpgその時期が注目されている衆議院の解散・総選挙にあって、最大の争点と考えられるのが医療政策。当機構では日本の医療政策のキーパーソンに「医療政策―新政権への緊急提言」と題したインタビューを行っています。

第7回にご登場いただくのは、東京大学大学院経済学研究科教授吉川洋氏。今年11月に出された社会保障国民会議の最終報告が各界で大きな話題となりましたが、吉川氏はその会議の座長でもあります。
 
インタビューは、下記共通質問項目に沿って行われています。

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<質問項目>
1.医療政策における重要課題は?
2.課題解決を実現するための財源確保の方法は?
3.課題解決のためにご自身が行っている、あるいは行おうとしていることをお聞かせください。
4.日本医療政策機構への期待やアドバイスを。
5.我が国の医療政策に必要な、もっとも重要なキーワードなどを「ひとこと」で示してください。






1.医療政策における重要課題は?

医療(入院)と介護の関係の整理

日本の医療・介護体制を長期的な視点から見ると、医療――とりわけ入院――と介護との連携に課題がある。11月4日に発表した社会保障国民会議の「最終報告」では、こうした観点から、高齢化の影響に加えて、医療・介護サービスにつきあるべき効率的な提供体制が実現したケースを前提にして、シミュレーションを行った。あるべき効率的な提供体制とは、病院はあくまで急性期の治療に専念する場所とし、高齢者の中長期的なケアはできる限り病院の外で行う「介護」として捉えるものである。

地域における医療連携の推進

私は社会保障国民会議座長という立場上、医療関係者から医療現場の現状について話をうかがう機会が多い。医師との会話、とりわけ勤務医の方の経験談を通して、医療施設と地域の連携をより良くするための取り組みが必要だと実感している。もちろん、そこには病院と診療所の連携も含まれる。

最近、東京都内で妊婦のたらい回しという不幸な事故が起きた。これを受けて東京都知事が、開業医に病院産科のサポートを要請するにいたったのは、病院と診療所の連携の必要性を表す象徴的な例だと思う。

日本で医療連携が進まないのは、通常の病院へのアクセスが良すぎる点に一因があると言う識者もいる。‘アクセスフリー’のしわ寄せが、いざというときの受け入れ体制を脆弱にしているのかもしれない。医療施設と地域の連携、病院と診療所の連携。それらの推進は、診療報酬体系とセットで考えることが有効だろう。

医療と患者の関係の再構築

「医療と患者の関係」の再構築は、社会保障国民会議座長の立場としてではなくわたくしの純粋な個人的意見だ。私は、医師、医療者と患者の関係が、今、危うい状況にあると感じ、憂えている者のひとりだ。

モンスターペイシェント、そして、その背景に見え隠れする医療訴訟の問題が、多くの医師の頭を悩ませていると聞く。友人の医師から、自分が勤務する病院の夜間救急に搬入されてくる患者の4割が単なる「酔っぱらい」だと聞いて驚くと同時に、現場の医師たちの苦労に胸が痛んだ。

何か事が起きたときに、医療事故か医療過誤かを判定する医療事故調査委員会の設立が検討されている。法整備も含めて医療提供者と患者の関係を確立することが望まれる。医師も人間、当然エラーはありうる。罰せられるべき悪質なケースもあると思うが、そうでない多くのケースで医師が必要以上に悩み苛まれるのであれば、それは結局「医療崩壊」を通して患者に返ってくる。

いずれにしろ、社会全体が、医療関係者に感謝する気持ちを持たなければ、医療の諸問題の解決は始まらない。医師がしっかりとした仕事を成し遂げたなら、患者は「ありがとう」と言うべきであるし、言える環境であってほしい。もちろん、医療提供側の情報開示が十分でなかったなど、国民の信頼を少しずつ失ってきた経緯はある。

しかし、だからこそ急ぎ両者の関係を整理して再構築しなければ、取り返しのつかない事態になる。医師が安心して働ける、そして国民が安心して医療を受けられるルールづくりが必要だ。


2.課題解決を実現するための財源確保の方法は?

医療保険 + 税金

医療に関する財源は、基本的に公的な医療保険とすべきと思う。ただ、現実論として、保険料の引き上げを青天井と考えるのは、無理がある。最近も大手企業の組合健保が解散し、政管健保に移管される事例が報告されている。まさに保険料引き上げに対する、わかりやすい「NO」の姿勢の表れと言えるだろう。このような動きは、今後、ますます広がる可能性もある。

保険料引き上げで充当できない分は、税金を投入するしかない。相当な額になるとは思うが、とにかく公費、税金を投入するかたちで、医療保険、介護保険を支える以外に手段はない。


3.課題解決のためにご自身が行っている、あるいは行おうとしていることをお聞かせください。

政策議論における交通整理

私たち経済学者の役割は、医療政策の議論における交通整理に尽きるだろう。

政策決定とは、突き詰めれば価値判断だ。最終的には、国民の価値観に沿って判断され、決定されるべきだと思う。問題は、その途上で議論が錯綜すること。少なくとも誤解にもとづいた百家争鳴は、国民の益とはならない。したがって私たち学者は、その交通整理に力を注ぐべきと思っている。


4.日本医療政策機構への期待やアドバイスを。

国民への正しくわかりやすい情報の提供

テーマがなんであれ、何がしかの判断を下すには正しい情報が必要だ。特に医療は複雑であり、問題を理解し、解決策を見出すには正確な情報が必須と言える。

国民は、社会保障の専門家ではない。自身や家族が病気になって初めて医療について何かを感じ考えるもの。より分かりやすい情報が与えられなければ、医療政策について確かな理解のもとに賛成、反対の意思表明をすることは無理だ。

日本医療政策機構のような組織には、わかりやすく正確な情報を国民に提供する部分を担ってもらいたい。国民に正しい状況と情報を知らせ、日本の医療政策を正しい方向に導いていってほしいと考える。

例えば常々残念に思うことのひとつに、高額療養費制度の認知度がきわめて低いことがある。これは、医療保険における自己負担額の月々の上限を定めた制度で、スタンダードなケースでは、上限は8万円+アルファ。具体例を挙げれば、たとえば1ヵ月の入院で150万円要した場合、3割負担の計算では45万円が自己負担となるが、高額療養費制度が適用されれば10万円ですむ。

私は、日本の医療保険は3割負担ではなく高額療養費制度が担っているとさえ考えている。しかし、この制度はあまりにも知られていない。しかも、昨年まで患者からの申告なしでは適用されなかった。昨年から条件付きだが申告なしでも適用されるようになったが、未だに、支払いが1医療機関で発生した場合のみ、医療機関での支払い時に高額療養費制度が適用され「月限上限」以上支払わなくてもすむ。複数の医療機関での支払いの月額総額を管理・計算するシステムがないからだという。したがって、多くの患者が自ら計算して申告しなければ制度を使うことができないままだ。

優れた制度であっても、国民が知らなければないのと同じ。医療政策機構には、高額療養費制度も含め医療において知るべき情報を国民に広く提供することを期待している。

5.我が国の医療政策に必要な、もっとも重要なキーワードなどを「ひとこと」で示してください。
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公的医療の範囲と負担、国民みんなで議論を

私は、公的医療保険、さらに言えば社会保障は原理的には自動車保険と同じだと思っている。自動車保険に入るときには、保険でカバーされる範囲と保険料の額を比較しつつ、自分にもっとも適当だと判断される内容で契約を結ぶ。医療保険も基本は同じ。負担と給付されるサービスを比較してバランスのいいところで保険料を決める。違いは、各自がバラバラに契約するのではなく、社会保険として国民全体で契約する点だ。

要するに、今、必要なのは、国民がみんなで医療保険がカバーする範囲と負担額を比較して徹底的に議論することだ。

あくまで私見だが、医療保険は、公費や税を投入しても、必ずしもお金が潤沢というわけにはいかないのではないかと思っている。そうした状況に備える意味でも、公的医療の範囲と負担について国民的な議論を深めておくことが必要だ。

■略歴
1974年東京大学経済学部卒業後、イェール大学大学院に進学(Ph.D.)。ニューヨーク州立大学、大阪大学を経て、現在東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授、内閣府経済財政諮問会議民間議員。専攻はマクロ経済学。主な著書に,『マクロ経済学研究』(東京大学出版会、1984年、日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞)、『日本経済とマクロ経済学』(東洋経済新報社、1992年、エコノミスト賞)、『ケインズ』(ちくま新書、1995年)、『高度成長』(読売新聞社、1997年)、『転換期の日本経済』(岩波書店、1999年、読売・吉野作造賞)、『現代マクロ経済学』(創文社、2000年)、『マクロ経済学 第2版』(2001年、岩波書店)『構造改革と日本経済』(2003年、岩波書店)など。

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「緊急提言」シリーズはあらゆる分野の方々に幅広いご意見を伺うこととしております。当シリーズでインタビューにお答え頂いた方のご意見は、必ずしも当機構の見解を代表するものではございません。
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by hpij | 2008-12-09 14:53 | 新政権への緊急提言
【緊急提言】第6回「Transparency(透明化)」
b0144534_1620749.jpg衆議院の解散・総選挙の最大の争点になると予想される、医療や年金など社会保障の問題。当機構では日本の医療政策のキーパーソンに「医療政策―新政権への緊急提言」と題したインタビューを行っています。

マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパン
ルードヴィヒ・カンツラ氏


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第6回にご登場いただくのは、経営コンサルティングファームのマッキンゼー・アンド・カンパニーでヘルスケア分野のエキスパートとして活躍されているルードヴィヒ・カンツラ氏。

カンツラ氏が所属するマッキンゼーは、世界各国の医療制度改革プロジェクトを数多く支えてきており、最近では日本の医療制度改革の一貫として、国際比較分析と課題整理を進められています。

カンツラ氏はこれらのプロジェクトのリーダーの1人として活躍されております。




インタビューは、下記共通質問項目に沿って行われました。

<質問項目>
1.医療政策における重要課題、政党がマニフェストに盛り込むべきと考える課題は?
2.課題解決を実現するための財源確保の方法は?
3.課題解決のため、課題解決のために自身が行っている、あるいは行おうとしていることは?
4.日本医療政策機構への期待やアドバイスを。
5.我が国の医療政策に必要な、もっとも重要なキーワードは?



1.医療政策における重要課題、政党がマニフェストに盛り込むべきと考える課題は?

医療の質の向上

日本には設備の充実した医療機関が数多くあり、誰もがそうした医療機関や高名な医師の診察を受けられるだけのアクセスの良さがある。この点は、医療機関受診のために長期間待たなければいけない他の国と比較すると対照的だ。
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しかしながら、アクセスの良さのせいで、一見質の高い医療を受けられているようにも見えるが、残念ながら、総評として、国民が享受している医療の質は高いとは言い難いという印象を持っている。

日本の医療が、必ずしもスタンダードレベルに達していない原因のひとつは、医師が継続して勉強することに対する評価システムが確立されていないこと。

ひとたび国家資格を取得した後、資格審査も免許更新もないのでは、最新の医療技術や知識の獲得は医師個人の努力に任される。したがって、知識不足の医師も少なくない。医師の資格審査や技量認定に関しては、厳正なるチェック体制が必要だと思う。
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もうひとつの原因は、皮肉なことにアクセスの良さに起因しているようだ。アクセスが良いせいで、「ドクターショッピング」なる現象が起こっている。患者が主導権を握り、気に入らなければ、すぐに別の医師にかかってしまうのだ。それは国民にとってある意味、都合はいいが、医師が「患者に嫌われたら経済的に困る」と考えた場合は、きわめて大きな問題となる。

また、日本では、専門医や他の医療機関などに患者を紹介すると、患者を失うことにつながりえるため、なんとか自分のところで医療を完結させようと考える。こうした点も、提供される医療の質のばらつきにつながっているだろう。


医療の透明化(データの収集、公開と分析)

日本の医療には、透明性が足りないと感じる。まず、行政の医療に関する情報の公開が不足している。社会に向けて情報が公開されれば、医療制度の方向性について国民がもっと考えるようになるはずだ。

透明化されるべき、もう一つの重要な点として、私は病院間や医師間の情報の透明化について述べたい。

病院オーナーは常に周辺医療機関の医療設備や、現在の最先端の医療技術や治療方法についてリサーチし、遅れをとっているとわかれば、これらの改善に取り組む。制度や規制による罰則やインセンティブなどなくとも、皆当たり前のようにそのような姿勢を持ち合わせている。日本の病院オーナーが、それをしようにも、自分の病院と他と比較できるだけのデータがない。病院に関する情報も口コミが主で、これは医療の質に影響する大問題だろう。

また、医師の間でも自分が全体の中のどこにいるのか、自分の診療レベルが高いのか低いのかそれを判定する方法がない。何らかのデータベースとベンチマークの発想があってもよいだろう。DPC(診断群分類包括評価)が導入され、ようやく急性期病院のデータが集まるようにはなった。しかし、透明化については改善の余地があるのではないだろうか。データをそのまま羅列して公開するだけでは、データから何が読み取れるかは一部の専門家にしかわからない。DPCデータが、医師や国民の意識変革のためではなく、入院期間の短縮や病床削減を推し進めるための材料として使われるにとどまっている。

今、問題視されている救急医療体制についても、透明化された医療圏データをもとに、必要とされる救急医療体制を敷き、バックアップの体制が築かれれば、いまの状態を脱せられるだろう。これは、地域による医療格差の問題でも同様。全国からデータが集まっていれば、全国平均に対してどの地域のどの部分に、どれほどの格差が生じているのかがわかり、具体的な対策も講じられるだろう。


医師不足の解消

医師数の不足に関しては、文部科学省によって医学部定員枠の拡大などが行われた。しかし、それだけでは問題の解決には程遠い。私は、さらに2つの策を講じなければ、医師不足の解消はおぼつかないと考える。

ひとつは、医療や医師への依存度を下げる試みだ。医学部定員枠拡大の成果を見るには、少なくとも10年は要する。その間手をこまねいているわけにはいかない。

日本の国民は海外の国民にくらべて、はるかに頻繁に医師の診察を受けている。いったん入院となれば、在院日数も飛び抜けて長い。それらを是正すれば医師にかかる負担は軽くなり、医師の不足感は和らぐだろう。これら受診頻度と入院日数などの課題に取り組まなければ、将来的に医師の供給が増えても、結局は不足感は解消しない。
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もうひとつは、専門医数のセントラルコントロール。日本の医師不足の大きな要因は、医療のニーズと専門医の供給の間にある大きなギャップだ。ニーズに対して医師の供給が少ない診療科に人材を送り込み、足りている診療科は絞る。需給をマッチさせるようにコントロールするシステムが必要ではないだろうか。

同様のコントロールは、地域間の医療供給量を均一にするためにも、必要だろう。


2.課題解決を実現するための財源確保の方法は?

医療制度の在り方についての議論、選択。その後、財源についての議論、選択

日本の財政状況から将来の医療費の不足を推測すると、今、できること、可能なことは、すべて即時に実行しなければならないのは明白である。しかしながら、慌ててはいけない。今後、日本がどのような医療制度を築くかについての議論を行い、何を選択するのかを明らかにすることを優先させるべきだ。

現行の平等性の高いシステムは、残念ながら破綻の危機にある。それをこのまま立て直そうとする場合と、異なったシステムに変える場合とでは、当然ながら、必要な財源はかなり違ってくる。
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財源をどこから取るのか。たとえば、すべてを税金でまかなうイギリスと、すべてを保険料でまかなうドイツでは、当然ながら大きく異なる。

医療費の公的負担と個人負担のバランスをどうするのか、国民的議論を経て、早急に決定すべきと考える。

なお、たばこ税増税については、検討の余地はあるだろう。ただ、たばこ税に国民の健康増進の効果も期待されているようだが、それに関してはどうだろうか。たばこ税増税が喫煙率を下げると考えるのは、少々短絡的だろうか。たばこ税の低い国で喫煙率が高いとは限らない。

私は、喫煙率は税制度よりもむしろ、社会の嫌煙感によって抑制されると考える。政府が喫煙率の低減を望むなら、増税よりも健康教育に力を注ぐほうが効果的だろう。政府による教育や啓蒙が不足していると思う。これは、たばこ対策のみならず、さまざまな分野に共通している。


3.挙げられたような課題を解決するために自身が行っている、あるいは行おうとしていることは?

議論のたたき台としての資料提示

現在、私たちは、日本の医療制度の課題、問題点を探り、解決策を模索する「Japan Health System Project」に取り組んでいる。数多くの海外の制度や事例を分析し、国内外の専門家の協力も仰ぎながら実施している本プロジェクトを通じ、日本の医療制度を考えるにあたっての有意義な資料を提示できれば本望だ。

医療制度の問題は、視点を国内だけにとどめていてはなかなか解決には至らない。私たちの提示する案や意見も参考にしていただき、有意義な議論が展開されることを願う。

ちなみに、現在、日本国内にある議論には2つ大きな疑問を感じている。

一点目は、議論のテーマがあまりに各論に偏っている点。いきなり医師不足や混合診療の是非について議論を白熱させても、全体像に関するコンセンサスが不在では、議論もかみあわない。要は、議論の順番の問題である。全体像に関する議論と合意があって後、さまざまな各論があるべきだ。

二点目は、個人が個人の主張ばかりをしているように見える点。関係者個々は、非常によく勉強されており、問題を高いレベルで理解されているのに、意見は各々の立場を守るほうに向く傾向があり、譲歩もない。協力する、コラボレートするという思考なしでは、いつまでたっても意見と意見が平行線のままではないだろうか。


4.日本医療政策機構への期待やアドバイスを。

日本医療政策機構が、医療問題に関する国民への啓発活動を担っている点に関しては、高く評価し、今後に大きな期待を寄せている。

日本の医療制度の課題に対して、国民が当事者意識をもって全体で解決していく流れを促進していただく役割を期待したい。

また、啓発にとどまることなく、積極的に具体的政策の提言を行い、実現のための力を生み出せる組織になることを期待したい。


5.我が国の医療政策に必要な、もっとも重要なキーワードは?

b0144534_14303773.jpgTransparency(透明化)

データを裏づけとした論拠がない状態で政策を話し合っても、議論のための議論に終始するのが落ちだろう。全国的なシステム構築をめざすなら、現状認識、将来展望、目標設定などを信頼に足るデータのもとに行い、大きなコンセンサスを形成することがよいだろう。実際に、先駆的試みをしている国では、そのような取り組みを行っている。日本においても、医療セクターにおける情報の透明化を、先進国標準レベルまで引き上げる必要がある。

また、日本の医療制度についてオーナシップをもった人物、機関、団体がどこなのかが明確ではないという課題もある。責任と決定権の不明瞭さは、リーダーシップの欠如につながり、制度改革の足かせになる。この点についても、改善が必要だろう。

日本は、変革に関してかなり大きなポテンシャルを持った国だ。課題解決に向けて、その道は簡単ではないだろうが、その道を進むことで、可能性を開花させることを願ってやまない。

■プロフィール■
ドイツに生まれる。高校卒業後、ドイツにて救命救急士として2年間勤務。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス卒。その後、オックスフォード大学にて経済学修士・博士号取得。1995年より日本在住。2年間、日本銀行金融研究所に客員研究員として所属。その後、多国籍メーカー企業に入社し日本部門営業部長として勤務。2001年マッキンゼー入社。アジア諸国(主に日本)でのヘルスケア分野を主に担当。ハイテク分野も一部担当。事業成長、既存製品の売上拡大、新製品発売、営業・マーケティング・研究開発部門の強化、日本官公庁プロジェクトなどに従事。日本をヘルスケアリーディング国に推し進めることを目指している。



■関連報告書■
Addressing Japan’s health care cost challenge
Full report: The challenge of funding Japan’s future health care needs
The Challenge of Reforming Japan's Health System

※カンツラ氏がご講演されるシンポジウムのご案内を掲載いたします。詳細は下記までお問い合わせください。
病院可視化ネットワーク第6回ワークショップ
『病院マネジメントの可視化―医療の質の向上と効率化の同時達成を目指して―』

日時:H20年12月7日(日) 時間:10:00-16:40 (受付9:30より)
会場:六本木アカデミーヒルズ 49Fタワーホール
参加費:無料(先着300名様)

お申し込み受付は事前登録が必要で先着順となります。

主催:東京医科歯科大学大学院医療経済学分野
併催:日本医療・病院管理学会第270回例会

<連絡・お問い合わせ先>
東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 医療経済学分野 (担当:宇野)
電話:03-5803-5931

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by hpij | 2008-12-03 17:02 | 新政権への緊急提言
【緊急提言】第5回「教育と医療は国家の品格」
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「医療政策―新政権への緊急提言」第5回目は、
テルモ株式会社代表取締役会長である和地孝氏の登場です。
インタビューは、下記のような共通の質問項目に沿って行われています。

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<質問項目>
1.医療政策における重要課題、政党がマニフェストに盛り込むべきと考える課題は?
2.課題解決を実現するための財源確保の方法は?
3.課題解決のため、行っている、あるいは行おうとしているアクションはありますか?
4.民間非営利のシンクタンクである日本医療政策機構への期待やアドバイスを。
5.我が国の医療政策に必要な、もっとも重要なキーワードなどを「ひとこと」で示してください。




1.医療政策における重要課題、政党がマニフェストに盛り込むべきと考える課題は?

医療と教育は国家の品格。哲学をもって臨め。

まずはじめに、今日私がお話しするのは「新政権への緊急提言」という政治や政策、ましてやマニフェストといった話ではなく、医療全体をどう高めるかというもっと大きな見地にたった話であることをご理解いただきたい。

教育と医療は、国民の公共財であり、国の根幹を左右するものであると同時に、ひとたび崩壊となれば立て直しには確実に10年単位の時間を要するだろう。つまり両者における課題は、他に関する課題とはまったく性質の異なるものと考えるべきで、「財源の確保ができないからやらない」、あるいは「資金的な問題で課題解決への着手を先送りにせざるをえない」などという姿勢で臨むなどあってはならない。人の幸福に影響する教育や医療に対しては、哲学を持って臨まなければならないのである。

残念ながら我が国は今、品格を保てるか否かの淵に立っているのではないだろうか。「ヒポクラテスの誓い」を必読しろとまでは申し上げないが、医療政策にたずさわる諸氏には、ぜひ医療にまつわる哲学への造詣と認識を深めてもらいたいと思う。

「高齢者=病人」ではない

日本の医療にまつわる問題のひとつは、たとえば「高齢者=病人」との認識。その認識がベースとなり、「高齢化が進む」、「病人が増える」、「お金がかかる」――「だから、医療費が増える」との論法ができあがっている。こうした論理展開に疑問を発する声が少ないのには正直、驚きを隠せない。私は、「高齢者=病人」には大いに疑問を感じているし、政策担当者と医療の現場に身を置く方々には、発想の転換を呼びかけたい気持ちだ。

たぶん日本は、世界的に見て、かなり高齢者の寝たきり比率が高いだろう。背景に「畳の文化」があるせいかもしれないが、日本では、老人を、病人を、すぐに寝かせてしまう。この発想転換するだけでも、先に挙げたような納得し難い論理展開から脱却できると思うのだが、いかがだろうか。すぐに「寝かせて」しまう慣習や認識が寝たきり老人を大量に輩出している。言葉は悪いが、重篤患者の大量生産が行われているとも言える。

スウェーデンなどでは、寝たきりの患者を増やさないよう患者は極力ベッドから出るような手が打たれており、そのために車椅子が重用されていると聞く。日本は、高齢者の扱いについて、まだまだ他国に見習うべき点が多いと感じる。

ちなみに、最近は、「医療はコストと考えるべきではない。むしろ産業として発展させる視点が必要だ」との意見が、国会議員の中からも出始めている。これもまさに発想の転換だろう。医療に関して多くの「発想の転換」から始まる議論に期待したい。

予算配分を大枠から議論する

医療費を各論として語る前に、国家予算の大枠の中で医療費、社会保障費の配分がいかにあるべきかという議論が必要だ。「医療予算はこれしか出せない」「将来的にはこれだけ削っていかねばならぬ」との論がどちらも既定路線かのように受け止められているが、社会保障全体への大きな配分に対する議論なくして、各論としての医療費だけが決まっているような現状には大いに疑問を感じる。

先進国の「社会保障費+公共事業費」の対GDP費は、約15%とほぼ同様の数値。日本もその中に入るが、医療費だけを見ると約8%で先進国内最下位となる。この点はきちんと議論すべきだし、繰り返しになるが「国家の品格」の問題だ。 

2.課題解決を実現するための財源確保の方法は?

消費税(生活必需品へ配慮した税率アップ)

財源確保については、まずは支出の無駄をなくすのは当然。しかしそれだけでは医療の財源確保は無理。残念ながら増税から捻出する以外に方法はない。いまの財政赤字の規模からしても、その対象は消費税だろう。ただし、他の先進国同様、生活必需品への税率は抑える配慮が絶対に必要だ。生活必需品への配慮を前提にした消費税増税を議論すべきときだと思う。

ちなみに、たばこ税の増税は、喫煙者が減り、国民の健康に寄与するであろうから賛成だ。

3.このような課題を解決するため、和地さん自身が行っている、あるいは行おうとしていることはありますか?

医療機器技術開発への努力

私たち医療機器業界には、医療の質向上と医療のコスト低減への貢献、いうなれば「人に優しい医療」の実現が使命として課せられていると考えている。たとえば、心筋梗塞の治療に使われるカテーテルは、以前は足の動脈から入れていたが、腕から入れられるようにしたことで、治療における侵襲を低減すると同時に、手術費用や入院費の減少にもつながった。

日本人は、ものづくりが得意だ。工業界を広く見わたせば、世界的な要素技術を有する企業も数多い。行政、企業、大学の連携をより活発化させれば、医療機器を通じた医療、あるいは医療政策への貢献はさらに大きなものになると確信している。

先の10月24日、甘利明行政改革担当相が、規制改革会議に医療機器の臨床研究用承認制度(日本版「IDE制度」)の創設などを規制改革テーマとして提案した。臨床研究用承認制度とは、薬事法で承認される前の開発段階にある医療機器の有用性を臨床で確かめられるようにするというもの。国内の医療機器産業の機器開発支援が目的だと聞く。同承認制度の創設提案は、行政にも医療機器が医療やその政策に及ぼす影響が大きいとの認識が芽生えた証とも言え、喜ばしく思っている。

ちなみに医療機器には、大きくわけて診断機器と治療機器がある。特に後者は使用中に患者が命を落とす場合もあるという点で特にリスクが高いとされている。実は、医療機器メーカーが要素技術における連携等を専門技術会社に要請した折に、その治療機器の抱えるリスクが障壁になるケースがある。これは、日本独特の現象だ。

連携を辞退する専門技術会社には、「人の命にまつわることにかかわって、世の非難を浴びる事態は避けたい」とのメンタリティがある。あえて言うなら、欧米の「チャレンジして失敗しても評価する文化」と「人に迷惑をかけてはいけない文化」の違いなのだろう。ただ、これでは医療機器の技術開発はなかなか進まない。そろそろ国民の皆さんにはメンタリティを変え、長い目で医療機器の果たす貢献度を考えるようにしていただきたい。


4.民間非営利のシンクタンクである日本医療政策機構への期待やアドバイスを。

本質的で開かれた議論の場を

医療にまつわる問題においては、上澄みが喧伝されて本質が見すごされている事象が多すぎる。新聞には「産科や小児科の医師が不足」とは載っているが、なぜそうなっているのかが書かれていない。たとえば、若い医師が訴訟を怖れて産科や小児科を敬遠しているという基本的な事実や本質が書かれていないのである。それに関しては、いささか既存のマスコミには期待できないというのが私の感想だ。

そこで、日本医療政策機構のような中立的なシンクタンクには大いに期待している。ときには政府に対して、ときにはマスコミに対して、そして国民に対して、勇気を持って本質論を投げかける役割を果たしていただきたい。医療の議論では、本質が本音で語られる場があまりに少ない。

2008年はじめの医療政策サミット(註:日本医療政策機構主催)のときに、私は「後期高齢者医療制度」という名前は良くないよ、と指摘したはずだ。あの時に参加していた政府の方もすでにその名称を非常に気にされていた。あの時変えていれば、あれほど後期高齢者医療制度が問題になることはなかったかもしれない。そういう「言いにくいことも言う」という鋭い議論や場を提供してほしいと切に願う。本質の議論を提供しなければ、日本は劣化する。

5.我が国の医療政策に必要な、もっとも重要なキーワードなどを「ひとこと」で示してください。
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教育と医療は国家の品格

国が衰え、経済的に、政治的に二流、三流国になり下がることを望む国民はいないだろう。それぞれにおいて一流の国であるための努力はあってしかるべきだが、同時に、国家の品格についての思考も止めてほしくはない。

日本はすごく良い国だ。私は57カ国回っているが、日本が一番だ。国境を他国と接していない、水道水をそのまま飲める、川の水が澄んでいる等の環境の中で培われた高度の精神文化と美意識がある。こんなに良い国だが、日本人が劣化しているように思う。これを支えるのが、教育と医療だ。

冒頭で述べたように、教育と医療は他の問題とは質を異にし、国家の品格を問われる課題である。そこには哲学が求められるのだ。


■略歴
和地 孝
テルモ株式会社代表取締役会長

1935年生まれ。1959年横浜国立大学経済学部卒業後、同年株式会社富士銀行入行。1988年取締役業務企画部長となる。1989年テルモ株式会社入社、常務取締役、専務取締役を経て、1994年代表取締役副社長、1995年代表取締役社長に就任。2004年より現職。公職として、社団法人日本経済団体連合会常任理事、日本医療機器産業連合会会長なども務める。2004年度ミッション経営大賞(ミッション経営研究会)、同年度財界経営者賞(財界研究所)を受賞、2008年秋 旭日中綬章。著書に『人を大切にして人を動かす』(2004年 東洋経済新報社)、『人の心を動かす人になれ』(2006年 三笠書房)。
1990年代はじめに経営危機に陥ったテルモを、「人はコストではなく資産である」との経営哲学の下、「人を軸とした経営」を実践し、今日の姿に建て直した。

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「緊急提言」シリーズはあらゆる分野の方々に幅広いご意見を伺うこととしております。当シリーズでインタビューにお答え頂いた方のご意見は、必ずしも当機構の見解を代表するものではございません。
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by hpij | 2008-12-03 17:01 | 新政権への緊急提言
【緊急提言】第4回:「政策目標・決定過程・医療機関経営の3つの透明化を」
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「医療政策―新政権への緊急提言」の第4回目は、ニューヨーク州ロチェスター大学医学部地域・予防医学科助教授/兪 炳匡(ゆう・へいきょう)氏のご登場です。つい先日、オバマ氏が大統領選挙で圧勝し、共和党から民主党への政権交代が起きたアメリカ。在米の兪氏からは、大統領選直前の10月末にお話しをおうかがいしました。

b0144534_16453033.jpgインタビューは下記のような共通の質問項目に沿って行われています。

<質問項目>
1.医療政策における重要課題、政党がマニフェストに盛り込むべきと考える課題は?
2.課題解決を実現するための財源確保の方法は?
3.課題解決のため、行っている、あるいは行おうとしているアクションはありますか?
4.民間非営利のシンクタンクである日本医療政策機構への期待やアドバイスを。
5.我が国の医療政策に必要な、もっとも重要なキーワードなどを「ひとこと」で示してください。


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まずはじめに、アメリカでの政権交代により、医療政策にはどんな影響があるでしょうか。

医療関連予算が拡大される
現時点では何とも言えないものの(インタビューは現地時間の10月30日に実施)、米国では政権交代に伴い、予算配分の重点項目が大幅に変わる。過去の民主党政権時の予算編成から、オバマ政権下でも、相対的に国防関連予算の比重が小さくなり、医療、教育関連分野の予算比重が大きくなると予想される。オバマ氏の支持者には中・低所得者層が多いことは、オバマ氏が中・低所得者向けの減税を公約に掲げていることからも明らかである。

更にこの層、とりわけ未成年の医療保険加入率を引き上げるため、税制上の優遇策を含めた政策を提案している。しかし、強制加入を伴う国民皆医療保険制度については、支持層の中産階級以上のかなり多くの人がアレルギーを持っている。それ故、そこまで踏み込んだ制度改革にはいたらないのではないか。皆医療保険制度導入を最後に試みたのはビル・クリントン前大統領だが、彼があまりにも見事な失敗をしたので、今後世論が十分な支持を示さない限り、皆医療保険導入のような大きな政治的リスクを取る可能性は低いと推測する。


1.医療政策における重要課題、政党がマニフェストに盛り込むべきと考える課題は?

大きく言えば、3つ。まず、中期政策の数値目標の明確化、残りの2つは、民間「非」営利団体(Non Profit Organization(NPO))の役割を政策評価と医療機関の経営という2つの分野で強化することがあげられる。

中期的な政策目標を数値で具体的に示す
まず、重要なのは中期政策計画の透明化である。あらゆる政策分野全般に言えることだが、医療政策にも3~5年のスパンでの中期的な目標設定があってしかるべきであって、中期的なゴールが示されなければ、その途上において政策の方向性が正しいか否かの評価は困難だ。そればかりか誤っていた場合の方向転換もままならない。

最も分かり易い例としては、「公的な医療費支出を3年から5年の間にここ(X%)まで引き上げる、ないし、主要先進国7カ国(G7)の中で中位を目指す」でもいいし、逆に「5年間でここ(X%)まで引き下げる、G7諸国中の最下位を日本の『指定席』として死守する(笑)」でもいい。とにかく、中期的な医療費の大枠や、目標実現のために途上で達成しておくべき数値目標を具体的に示してほしいと思う。近年、日本の首相が短期間で変わり政権が安定していないので、この課題の提案は、ひとりの首相のもとでの政権が少なくとも3~5年続くという希望的前提の上であるが。

一国の望ましい総医療費の水準に関しては、自著「『改革』のための医療経済学」の中でも書いているが、経済学の現状では、このような価値観の関わる大きな政策上の問題に明確な答えを出すことは不可能であり、今後も期待すべきではない。なぜなら百歩譲って、国民の価値観を正確に測れたとしても、「最適な総医療費レベル」を実証的に示すことは技術的に非常に困難であるからだ。現実的には、政治家が頻回に多くの国民の声に耳を傾け、増減の判断を下すべきだろう。

政策評価分野でのNPOの役割強化
政策決定過程を透明化する一案として、政策を政府以外の民間「非」営利団体(NPO)である大学ないしシンクタンクが、客観的・第三者的に評価する仕組みを制度化するべきである。こうした提案をすると必ず「資金はどうするのか?」と聞かれるが、先例はある。米国のジョンソン大統領は、政策事業費の1%を評価のために強制的に支出するよう義務づけた。こうすれば、追加の財源確保は必要ない。

以前、日本のある官僚の方に事業評価に予算の一部を義務付ける話をしたところ、「既にやっている」とあっさり答えられた。しかし、よく聞いてみると、それは純粋な「第三者」評価ではなく、身内による内部評価であるか、身内の延長のような外部の第三者に委託しているケースが少なくない。このような身内評価では、評価が甘くなることは想像に難くない。こうした現状では、NPOでの政策評価が今後制度として定着する方向に進むのかはなはだ疑問だ。

米国は政策評価をする人材の質が高い一方で、その数が時に多すぎる気もするが(笑)、せめて英国ぐらいは人材を育成していくべきだろう。医療費を増やしても学術的に厳密な評価を行わずに、例外かも知れない個々の失敗したケースのみがマスコミに大きく取り上げられ、漠然とした医療に対する不満が大きくなれば、今度は反動で医療費を大幅に減らそうとなる――このような根拠の乏しい政策転換を避けるためにも、政策転換の過程・根拠を明らかにできるNPOによる第三者評価の制度化は急務と言える。

NPOである医療機関の財源と経営監査を強化
欧米では、大規模な病院や大学病院の多くは民間『非』営利団体(NPO)であり寄附や税制で優遇されている一方で外部監査などの経営に対するガバナンスは非常に厳しい。日本の場合は、法律上は民間病院も含めて非営利団体(NPO)とされているものの、実態は曖昧だ。地域の中核病院は公的な性格・役割が大きいため、NPOとしての経営監査を強化すると同時に、財源も強化すべきと考える。

財源案を2つ挙げると、(i)国に払う税金10万円までをNPO(医療機関)に寄付できるような税額控除の仕組みを制度化すれば、数千億円規模の財源が医療機関や先にも述べた政策評価を行うNPOに集まるとの試算もある。単純な比較はできないが、日本の寄付額は7000億円(2002年)、人口が日本の約半分である英国では2兆円(2004年)、日本の人口の約2倍強の米国で24兆円(2002年)という数字を比較すると、日本において寄付金を更に支援する制度の設立が望ましいと考える。(ii)パーセント法 (注:納税者が所得税のうち1-2%を、自らが選択したNPO・公益機関に提供できる仕組み) が欧州や韓国で始まっている。

これらの財源案に共通しているのは、住民の主体性が求められる点である。自分の支払う税金の使い道を、住民が主体的に医療であれ、何であれ決定することは、納税者にとっての負担と受益の関係を透明化することにも役立つ。地域住民からの寄附を通じた経営参画を促すのも一案だ。医療機関の経営も安定するうえ、住民の関心も高まるだろう。


2.課題解決を実現するための財源確保の方法は?

食品、衣料などの生活必需品を除き消費税を引き上げる
「中期的な政策目標を数値で具体的に示す」、「政策評価分野でのNPOの役割強化」、「NPOである医療機関の財源と経営監査を強化」と3つ挙げた課題の中で、解決に財源を示さなかった1番目の「財源確保の方法」として私が考えるのは、消費税の引き上げだ。ただし、絶対的な前提条件として食品や衣料は対象外にする。私が知る限り、主要な先進国でこれら生活必需品に消費税をかけている国は、極めて少ない。生活必需品と、いわゆる贅沢品が同じ税率だと、結果的には中・低所得の人たちの負担が大きくなるからだ。

生活必需品の消費税を引き下げるかわりに、贅沢品など、それ以外の物品については消費税を上げる、または、所得税率を下げ、中・低所得の人たちの税率はさらに低くした上で消費税を上げる――こうした組み合わせの方法を用いれば、消費税を引き上げても社会全体、とりわけ社会的弱者に与えるダメージが少なくて済むのではないだろうか。少なくとも食品や衣料に10%や20%の消費税をかけようとする案は私には理解に苦しむし、国民の支持も得にくいのではないか。拙著でも述べたように、長期的には総医療費を上げる可能性があるもの、たばこ税の税率は更に引き上げてもいいと思う。

3.このような課題解決のためにご自身が行っている、あるいは行おうとしていることをお聞かせいただけますでしょうか?

書籍、寄稿文、講演を通じた啓発活動
以前、「『改革』のための医療経済学」という本を出版し、大きな反響をいただいた。これからも、書籍、寄稿文、講演などを通じ、医療経済について発信をつづけ、多くの方々を啓発していきたいと考えている。

私が現在米国で主に行っている研究は、パンデミック(大規模な感染)が起こった場合の政府や医療機関等の対応についての経済分析である。政策目標に応じて政府及び医療機関等が取るべき選択肢の優先順位を決められる、経済学的視点を含む数学シミュレーションモデルの作成を行っている。鳥インフルエンザが変異してパンデミックが起こるのは、公衆衛生関係者の間ではもはや時間の問題と言われており、対応策は出現阻止ではなく出現した後の被害をどれだけ小さくできるかに移っている。しかし、その対策の経済学的視点を含むシミュレーション分析についてはまだ本格的に行われていない。パンデミックは一見非日常的なものだと思われがちだが、実は経済や暮らしに大きな影響をもたらす可能性がある問題だ。このような広義の予防医学、医療経済学の研究を通じて医療に貢献していきたい。

ちなみに、私が勤務するロチェスター大学は、感染症・インフルエンザ研究では、世界でもトップレベルの研究者が揃っており、鳥インフルエンザのワクチンを世界で最初に開発した研究グループ、ワクチンの開発を分子レベルの数学シミュレーションモデルに基づいて行う研究グループ、パンデミックの出現をモニターする研究グループ、ワクチンをいかに医療機関を通じて効果的に提供するかを研究するグループ等が、1件あたり少なくとも数千万円の単位から10億円単位の研究助成金を獲得している。米国は、日本と比較すると研究助成金の機会も額も桁外れに大きい。


4.日本医療政策機構への期待やアドバイスを。

超党派の立場で政策インフラ整備に寄与を
日本医療政策機構のウェブサイトでは、各政党の医療政策責任者の方にインタビューをした記事を掲載しているが、さらに踏み込んだコンテンツも企画してはいかがだろうか。

例えば、各党のマニフェストを並べ、何かの指標を設けて、順位付けをした結果を公開するのも一案だ。厚労省の政策の一部でも、科学的根拠の確かさでランキングして公開すれば、かなりの反響があるはずだ。医療政策への関心が高まるだろう。各政党や厚労省がランキングを気にするようになれば、政策改善を促す機能を果たすことにもなろう。これらは一例だが、今後も超党派の立場だからこそできるインパクトのある活動を期待したい。

5.我が国の医療政策に必要な、もっとも重要なキーワードなどを「ひとこと」で示してください。
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「透明化」
質問1の「医療政策における3つの重要課題」を統括すると、「透明化」というひとつのキーワードでまとめられる。私の提案が目指しているのは中期的な政策目標の透明化、NPOの役割強化を通じた政策決定過程の透明化、医療機関の財源と経営の透明化、住民にとっての負担と受益の透明化である。

日本では今、総選挙が近いと言われているが、各政党が中期的医療政策の目標を明らかにしてくれれば、投票する際に大いに参考になるだろう。そして政府には、政策が何を根拠に、どういう過程を経て決定されたか、国民に対して説明する責任、アカウンタビリティがある。この際の説明「資料」の一部を政府外部のNPO(大学、シンクタンク)で作成するよう制度化すべきである。また、日本では、医者が儲けすぎだという批判が根強いが、医療機関の経営を透明化すれば、このような根拠の曖昧な批判も減るのではないか。

■略歴■
兪 炳匡
1967年大阪府に生まれる。1993年北海道大学医学部卒業。1993~95年国立大阪病院で臨床研修。1997年ハーバード大学にて修士号(医療政策・管理学)取得。2002年ジョンズ・ホプキンス大学にて博士号(PhD、医療経済学)取得。2002~04年スタンフォード大学医療政策センター研究員として高齢者介護制度の国際比較研究に従事(2004年以降非常勤研究員)。2004~06年米国厚生省疾病・管理予防センター(CDC)エコノミストとして遺伝子スクリーニングを含めた予防医療の経済評価に従事。現在はニューヨーク州ロチェスター大学医学部地域・予防医学科助教授として、医療経済学の研究(特にインフルエンザ予防接種の経済評価)・教育に従事。関心領域は、高齢化が医療制度に与える影響の国際比較、予防医療(特に予防接種・スクリーニング)の経済評価(本略歴は「『改革』のための医療経済学」に掲載されていたものです)

■関連記事■
兪 炳匡 著「医療白書2007年度版 第1部(2):医療経済学は医療資源配分の改善などで医療改革に貢献できる」
第8回日本医療政策機構 定例朝食会 兪先生ご講演「『改革』のための医療経済学」

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by hpij | 2008-11-19 16:35 | 新政権への緊急提言
【緊急提言】第3回:「医療費の総額抑制見直し、安心と安全の医療を」
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日本の医療政策のキーパーソンに聞く「医療政策―新政権への緊急提言」。第3回は全国社会保険協会連合会理事長で、元厚生労働省医政局長の伊藤雅治氏にお伺いしました。



b0144534_17521019.jpgインタビューは、下記共通質問項目に沿って行われています。

<質問項目>
1.医療政策における重要課題、政党がマニフェストに盛り込むべきと考える課題は?
2.課題解決を実現するための財源確保の方法は?
3.課題解決のため、課題解決のためにご自身が行っている、あるいは行おうとしていることをお聞かせください。
4.日本医療政策機構への期待やアドバイスを。
5.我が国の医療政策に必要な、もっとも重要なキーワードなどを「ひとこと」で示してください。


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1.医療政策における重要課題、政党がマニフェストに盛り込むべきと考える課題は?

医療費総額抑制政策見直し
現在、医療の現場でさまざまな問題が起こっているのは紛れもない事実である。しかし、起きた問題の表層のみに目を奪われ各論ばかりに終始していては、根本的な問題解決にはおぼつかない。現状は、残念ながら、基本問題、根本問題は何かを問うことなく、明るみに出た問題をモグラ叩きのように次々に叩くことばかりに力が注がれ、医療問題への対処方針は「各論地獄」に陥っていると感じる。

大きな視点で見れば、さまざまな問題の多くが、小泉内閣以降の医療費総額抑制政策に端を発している。したがって、そこにこそ、問題解決に至る鍵があると思う。

次期総選挙で政権担当をめざす政党には、まず、医療費総額抑制政策の見直しを最重要課題と捉えてもらいたい。

医療提供体制の再構築
医療費総額抑制政策の見直しを前提に、各論としての医療体制の議論をすべきことは述べた。その際に大切なのは、医療体制には、「医療提供体制」と支払い制度を含めた「医療保険制度」の2つの柱があるとの認識を持つこと。医療提供体制と医療保険のそれぞれの課題の整理がなされたうえで、私は、直近の課題として、まず医療提供体制の再構築への各論的取り組みに期待したい。

医療提供体制においては今、医療機関機能集約化の停滞と、医師や看護師の人材不足が深刻となっている。両者の問題は密接に関係する部分があり、医療機関の集約化を進めれば、ある程度は拠点病院に余裕を持った人員配置が可能になるはず。拠点病院の機能充実も図れるであろう。

患者、市民が参加し議論(政策と財源をセットで議論する)
医療費総額抑制政策の見直しも、医療提供体制再構築も、それに必要な財源確保の具体策なしでは机上の空論である。

財源の問題とはつまり、負担の問題である。したがって、負担者である患者、市民が議論に加わるべきなのは自明と思う。

社会保障に関しては、社会保障国民会議が創設され、社会保障政策に関していくつかの選択肢が示されたが、医療ついては医療政策の基本的枠組みについて患者・市民代表も参画して議論する場がない。今のところ医療は、たとえば社会保障審議会の医療部会、医療保険部会、中医協で議論されている。これでは、負担と給付の関係を総合的に議論し、必要な負担増を国民に選択肢を示していく議論になりにくい。議論の場は、厚生労働大臣の下に「医療政策基本審議会」のようなものを設置するのがふさわしいだろう。

「医療基本法」の成立を
包括的な議論をするうえでのポイントは、具体的選択肢を示すことだ。そして、その選択肢は、十分に練られたものでなければならない。先ほども触れたが、先日の社会保障国民会議の提言のように、具体的な選択肢をいくつか提示した上で選択を迫るようなスタイルは非常に参考になると思う。

だが、具体的選択肢を示して提言するには、多様なステークホルダーが関係する医療政策の政策決定プロセスに医療提供者や支払い側に加えて患者・市民の参画を法律的に担保する医療基本法が必要だと思う。国民生活に必要な分野で市場原理のみに任せられないという点では医療と教育が代表的な分野だが、教育基本法があるように、わが国の医療政策の基本を規定する「医療基本法」の成立がもっとも重要な医療の課題だと考える。

2.課題解決を実現するための財源確保の方法は?

保険料の引き上げを
財源確保の基本は保険料の引き上げと思う。もちろん、保険料が払えない低所得層への対策をきちんと考慮するのが前提だ。日本の税制度は所得税を中心に据えた応能制度になっているが、医療に関しては窓口負担は応益制度に、そして保険料負担については応能的になっている。その基本を変える必要はないと思う。

イギリスのような国営医療への転換を推進するひともいるようだが、日本の場合、歴史的経緯を踏まえて考えれば、負担と給付の関係が明確になる社会保険制度のほうが受け入れやすい。したがって、まずは安心と安全の医療提供体制の選択肢を示して保険料率の引き上げをお願いするしかない。そのうえで、保険料でまかなえない部分に対して税を投入するという方式が現実的だと思う。

投入すべき税財源は、所得税であっても、消費税であってもかまわない。たばこ税増税は喫煙率低減に効果があることは海外でも実証されており、国民の健康には大いに寄与するはずだ。たばこ税の増加分が何に使われるかは明言されていないが、医療費にまわせば、税率アップに対する国民の理解も得やすいに違いない。

3.課題解決のため、行っている、あるいは行おうとしているアクションはありますか?

医療者が国民に問いかける動きを喚起する
行政担当者や政治家が「医療のために負担をお願いしたいのだが――」と問いかけをしても、いったいどれほどの国民が聞き入れてくれるのか。私は、そこに疑問を持ち始めている。国民が役所や政治家に向ける目の厳しさ、不信感が、問題解決の前進を妨げていると思う。

私は今、国民に医療問題を投げかけるべきなのは、行政や議員ではなく医療者自身ではないかと思っている。医療現場の問題を、医療者が自らの責任として明らかにし、問題解決のために必要な負担を医療者の願いとして発言し、訴え、理解を求める。それが本来あるべき姿なのではないかと思うのだ。

私が学会長を務める第7回日本医療経営学会(11月29日開催)においても、このテーマを扱う。医療危機が叫ばれる中で、医療提供者は何をすべきか、参加者に問題提起をするつもりだ。また「医療提供者と市民が一体となった医療問題への取り組みを」テーマに、患者代表、メディア代表、政策立案側の代表と医療提供者の、4つのステークホルダーの方々に参加いただいてシンポジウムを開き大いに議論、情報交換をする予定だ。

また、東大の医療政策人材養成講座(HSP)での共同研究をきっかけに、患者団体とともに「患者の声を医療政策に反映させるあり方協議会」を発足させた。そこでは、医療基本法成立をめざした活動もスタートした。自民、公明、民主の3党から議員に出席いただき、勉強会を計画しているところだ。

4.日本医療政策機構への期待やアドバイスを。

具体的取り組みへのアイデアの供給を
私は、日本医療政策機構のような機能を持つシンクタンクを各政党が持つべきと思う。医療政策に関しては、何をすべきかは見えているが、具体化するための方法論のアイデアが出てこないという現状だ。政党がシンクタンクを持っておらず、すべきことを現実化する術を見出せないでいる現状を踏まえれば、日本医療政策機構をはじめとする中立的なシンクタンクからのアイデアに大いに期待したい。

また、冒頭に触れた「各論地獄」から抜け出すためにも、私は、国の医療政策の基本を定める「医療基本法」のような法律の制定が不可欠と考えているが、その制定の中心的な役割を担い、基本法の必要性啓発や、法案の具体的な内容の詰めについても、日本医療政策機構に期待している。

5.我が国の医療政策に必要な、もっとも重要なキーワードなどを「ひとこと」で示してください。
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「医療費の総額抑制政策を転換し、安心と安全の医療を確立」
振り返れば日本国民は、昭和30年代に国民皆保険制度ができて以降、医療へのアクセスについてはきわめて恵まれた環境ですごしてきた。しかも、幸運にも右肩上がりの経済成長と医療技術の進歩の歩調が重なっていたので、負担に関しても厳しい体験をしてこなかった。結果、国民にとって恵まれた環境が「当然」になってしまったことも、現在ある医療問題を引き起こした一因かと思う。

しかし現在は、高齢化社会が進み、経済も不安定になり、医療を財源問題抜きに語れなくなったという時代認識を、国民が共有しなければ、医療はもう立ちゆかない。もちろん、その共通認識のもとに議論にも加わっていただきたい。

行政担当者が、政治家が、医療者が、危機感を持って国民に医療の実態、そして課題解決の方法を訴えかけ、問いかけ、ともに考えるべきときがきているのだと思う。

■略歴■
昭和43年新潟大学医学部卒業、保健所勤務を経て、昭和46年厚生省入省。大臣官房審議官、保健医療局長、健康政策局長、厚生労働省医政局長を経て、平成13年退官。平成13年全国社会保険協会副理事長、平成15年より理事長。骨髄移植推進財団副理事長、日本医療機能評価機構副理事長を兼務。

■関連記事■
伊藤雅治 著「医療白書2007年度版 第1部(4):セルフマネジメント力を基本に医療者との協働体制を構築」
第12回日本医療政策機構 定例朝食会 伊藤先生ご講演「医療制度改革と社会保険病院の経営改革」

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「緊急提言」シリーズはあらゆる分野の方々に幅広いご意見を伺うこととしております。当シリーズでインタビューにお答え頂いた方のご意見は、必ずしも当機構の見解を代表するものではございません。
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by hpij | 2008-11-18 18:08 | 新政権への緊急提言
【緊急提言】第2回:「党を超えて医療政策にコンセンサスを!」
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衆議院の任期満了まで1年を切っています。いざ解散・総選挙となったとき、最大の争点は医療や年金など社会保障分野となるのは明らか。日本医療政策機構では、こうした状況を背景に、日本の医療政策のキーパーソンに「医療政策―新政権への緊急提言」と題したインタビューを行っています。

第2回は、中外製薬株式会社取締役社長であり、日本製薬工業協会常任理事、並びに当機構の相談役でもある永山治氏の登場です。

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今回より、インタビューは下記のような共通の質問項目に沿って行われます。
<質問項目>
1.医療政策における重要課題、政党がマニフェストに盛り込むべきと考える課題は?
2.課題解決を実現するための財源確保の方法は?
3.課題解決のため、行っている、あるいは行おうとしているアクションはありますか?
4.民間非営利のシンクタンクである日本医療政策機構への期待やアドバイスを。
5.我が国の医療政策に必要な、もっとも重要なキーワードなどを「ひとこと」で示してください。


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1.医療政策における重要課題、政党がマニフェストに盛り込むべきと考える課題は?

社会保障費制度の在り方

後期高齢者医療制度では、実施までに十分な時間的余裕があったにもかかわらず、いざ実施となると大きな非難を浴びている。社会保障制度は複雑なため、どうしてもその内容は専門家の独壇場になりがちだが、制度を活用するのは全ての国民なのだから、その目線での説明が必要だ。超高齢社会を迎えて今後、社会保障制度をどうしていけばいいのか、若者から高齢者まで全員にわかりやすく現状と課題、及び方策を示し続けなければいけない。

昨今の不安定な政治状況をみると、本質論を丁寧に国民に示し続ける姿勢が与野党とも十分といえるか疑問である。各政党が選挙を意識するあまり、本質論議を避けて表面的な対策にばかり目を向けていないか。選挙対策用のマニフェストは、どうしても耳触りのよい項目ばかりが並んで、実態が国民に伝わりにくくなってしまう。

そもそも社会保障制度というものは、政権が変わるたびに議論が蒸し返され、方向性がなかなか定まらないのでは、持続可能で安定した制度を作りあげることは期待できないと私は思っている。社会保障制度を安定的なものにするための基本的な方向については超党派で十分議論をして合意するべきだ。そのうえで社会保障に関する正確な情報を国民に伝え、選挙においては制度維持や財源確保策について各政党が知恵を絞った案をマニフェストとして国民に示し、国民が選択をするのが望ましい。社会保障制度の在り方や財源確保についての方向性がしっかり示されないようでは、国民としても善し悪しの判断ができないだろう。

日本の医療を世界に誇れる姿に 

昨今、病院の医師不足による診療科の閉鎖や妊婦の受け入れ拒否事件など、医療崩壊が社会問題化しているが、日本の医師数は増加しているのになぜこのような問題が起こってしまうのか、丁寧に原因を紐解いて、対策を講じなければいけない。医師が診療行為だけでなく何でもこなしてきたこれまでの日本の医療現場は、専門家である医師の目が隅々まで行き届いて、国民皆保険制度とセットで世界に誇る質の良い医療を実現してきたが、全てを医師に頼る医療は、今、医師の疲弊を招き、限界にきている。

医療現場での医師の支援体制には欧米に見習うべき仕組みが多くある。また、増加する女性医師が子供を持ってもずっと働けるような環境整備も急ぐべきだろう。特定の診療科の医師不足の解消には、緊急避難的に海外の医師に門戸を開く規制緩和があってもいい。

政府はこれまで医師の過剰な増員は医療費増加を招くとして医師数の増加抑制策を講じていたが、方向転換して医学部の定員を増やすことになった。しかし、医学生が育つのに10年はかかり、目の前に迫っている問題の解決にはならない。増えたから減らす、減ったから増やす、という数合わせの議論でなく、医療の質に切り込む現場目線の対策が必要だろう。

医師は、医薬品の開発にとっても必要な専門家だ。海外に比べて日本ではまだまだ企業や行政の中で医薬品の開発に従事する医師が少なく、臨床研究に取り組む医師もまだまだ十分でない。ここ数年、製薬会社に入社する医師が徐々に増えている。臨床経験のある技術者を求める製薬会社としては歓迎すべき傾向だが、審査側を含めてもっとたくさんの医師がこうした形で活躍してほしい。

日本の医療現場の技術レベルは、世界の中でもきわめて高い。このような臨床の高い技術水準を医薬品の開発に生かさない手はない。日本はイノベーションで医薬品を開発できるインフラを持つ数少ない国の一つと言われているが、世界的な医薬品開発の拠点として、特にアジアを代表する拠点として整備することは、海外からの投資を呼び込むことにもつながり、同時に、日本から世界に発信される画期的新薬が増えることで、日本経済にも大きく貢献するはずだ。海外との競争によって、臨床研究、産業振興の両面で日本の「技術」はさらに伸ばせるだろう。しかし、世界の動きは非常に速く新興国の追い上げも急だ。油断して立ち止まれば流れに乗り遅れてしまう。


2.課題解決を実現するための財源確保の方法は?

税(消費税、その他)

日本の医療費の財源は、税金と保険料と自己負担の3つで成り立っている。国民皆保険の基本形は社会保険なので保険料の比率が一番大きいが、これまで保険料も自己負担も少しずつ増やしてきて、どちらもほぼ目一杯に達しているのではないか。特に、自己負担は3割もあり、これが4割、5割となるようでは、保険としての機能に疑問の声が上がるだろう。雇用主に負担を求める方法では、社保、国保、政管健保という全体の体制に対応できない。つまるところ皆保険という性格からして、税の投入によって医療制度の運営を安定化させるという提案が、最も国民の同意を得やすいのではないか。

たばこの税率を上げる議論や、特別会計にメスを入れてひねり出す議論もあるが、安定財源になりうるかというと心もとない。将来的な医療費の需要に連動して安定的な財源を確保できる税の仕組みをきちんと考えていくべきだろう。

医療費の総額を抑制して乗り切ろうとする考え方もあるが、高齢者が増えれば需要が増えて医療費が増えるのは必然である。さらに、これまで治すことができなかった疾病を治すための医療の技術革新が進めば当然医療費は上がる。技術革新によって高齢者を含む国民全体の生活の質(QOL)が向上することになるにもかかわらず、一律で医療費の増加を押さえ込めば、医療技術のイノベーションの芽を摘むことにもなる。また、税を投入する前に医療の無駄をなくせとの指摘もあるが、健康保険証さえあれば、いつでも、どこでも、誰でも平等に医療を受けられるという国民皆保険制度の下では、何が無駄かを特定することは難しく、また患者個々の自己責任とのバランスを考慮する必要があると思う。

医療費の財源としては、消費税に期待する声が多いが、そもそも税制とは国の経済成長を高めるためのものであり、医療に限らず、税制全体を抜本的に見直す大議論が必要だ。その場合、不毛な議論に終わるのを防ぐために期限を設け、「いつまでに、誰が、何を」が、しっかり示されないといけない。


3.課題解決のため、行っている、あるいは行おうとしているアクションはありますか?

自分の考えを機会をとらえて主張する

政治家の方とお話しする機会や、多くの人の前で医療について語らせていただく際には、自分の考えを可能な限り披露するよう意識している。

大切なのは、ひとつひとつのテーマに関する議論の輪を広めること。問題提起や政策に関しては、個人がいかに声高に叫ぼうと、往々にしてかき消されてしまいがちだ。私自身、以前からチャンスがあるたびに「現場の医師は疲弊している」と主張してきたが、論破されるというより、さまざまな意見や情報の中で主張が「かき消された」との実感を強く持っている。
医療に関するそれぞれの問題に多くの人々が関心を持ち、さまざまな意見が埋もれることなく表に出ることで、議論が盛り上がっていくことを期待している。


4.民間非営利のシンクタンクである日本医療政策機構への期待やアドバイスを。

国民と事実をシェアして議論できる場を

現状では厚生労働省が情報の多くを保有している。まずは、彼らが持っている情報を、各党や国民に平等に伝えるような活動をしてほしい。与野党を超えて、医療の専門家や国民の代表者など、あらゆるステークホルダーが情報を共有し、それをもとに開かれた議論をする場はきわめて有意義だ。日本医療政策機構の「医療政策サミット」などはそれを具現化した例だろう。そのような場を提供できるという意味で日本医療政策機構のような組織の存在は貴重であると思う。

また、医療の「国民体育大会」ではなく「オリンピック」を開催してもらいたい。すなわち、日本が「国際競技場」となり、海外から医師や医療技術者、研究者が集まり、医療の技術や仕組みを開発し、海外に向けてアピールする場をつくれば、日本発の医療技術や制度が国内はもとより世界を牽引するものになっていくだろう。医療政策についていえば、どんどん海外から参加者を招いてグローバルな議論をしていくことで、新たな政策立案のヒントも得られるだろう。


5.我が国の医療政策に必要な、もっとも重要なキーワードなどを「ひとこと」で示してください。
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党を超えて医療政策にコンセンサスを!

医療政策に関して最終的な決定をするのは国民だが、医療制度と財源の問題を整理して判断をくだすには、きわめて高度な知識と正しい情報が必要だ。本来、それらをわかりやすく噛み砕いて国民に伝え、問題点を明らかにしつつ対策を示すのが政治であり、与野党を問わず政治家の役割は大きい。

しかし、国民自身の情報にもかかわらず、患者本人に対する情報公開の仕組みさえ十分ではなく、政治家やマスコミも、十分な情報を持っていないために、国民に対して分かりやすい説明ができない、国民も情報不足で判断できない、というのが現状だと思う。

納得のいく情報が十分行きわたらない状況を打破するためには、事実や正確な情報が国民に流れる仕組みを早急に整備すべきだ。議論するのに必要な情報なくして意義のある結論を導き出すことはできない。そこでキーワードとしては、「情報公開」がひとつ挙げられるだろう。

しかし、命にかかわる医療問題が緊急案件化している今日、それ以上に重要なキーワードがある。人間は誰しも年をとり、一生の中で必ず医療のお世話になる。今起きている医療問題は立場に関係なく、すべての日本人が直面する問題であり、そこに党利党略を持ち込んでは、国民全体が不幸になってしまう。したがって、私は国民の生活を守る使命を負った政治家の皆さんに、医療に関する政策については「党を超えたコンセンサス」をとる努力をしていただきたいと強く願っている。

■略歴
永山 治
中外製薬株式会社取締役社長
日本製薬工業協会常任理事

昭和22年4月21日生まれ、46年3月慶應義塾大学商学部卒業、同年4月日本長期信用銀行入行、50年4月ロンドン支店勤務、53年11月同行退行、中外製薬入社、58年2月営業本部部長兼国際事業部部長、60年2月開発企画本部副本部長兼事業企画部長、3月取締役開発企画本部副本部長兼事業企画部長、61年2月取締役薬専事業部副事業部長、62年3月常務取締役、平成元年3月取締役副社長、4年9月取締役社長(現任)、10年5月日本製薬工業協会会長就任、12年5月日本製薬団体連合会副会長就任。また、平成6年4月から平成7年度まで東京大学経済学部非常勤講師「産業事情・医薬」講座担当。

日本の製薬業界では屈指の国際派として知られる。製薬産業がこれからの日本の戦略産業のひとつとして極めて重要であり、我が国に人、技術、企業、資本が集まり、切磋琢磨する”国際競技場”のような場を国家レベルで整備すべきであるとする独自の「製薬産業論」を提唱。自社においては、グローバル競争が激化し、業界再編の波が押し寄せる中、2002年10月、他社に先んじてスイス・ロシュ社との戦略的アライアンスを締結し、グローバル競争基盤を飛躍的に強化することに成功した。

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「緊急提言」シリーズはあらゆる分野の方々に幅広いご意見を伺うこととしております。当シリーズでインタビューにお答え頂いた方のご意見は、必ずしも当機構の見解を代表するものではございません。
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by hpij | 2008-11-12 10:25 | 新政権への緊急提言
【緊急提言】第1回 黒川清「医療制度改革―現実見極め基本法制定を」
b0144534_1620749.jpg解散・総選挙が先送りになったものの、衆議院の任期満了まで1年を切っています。政権選択選挙が迫る中、各種世論調査によれば、国民が最も高い関心を寄せるのが医療や年金などの社会保障分野です。



日本医療政策機構では、このような中、日本の医療政策のキーパーソンに「医療政策―新政権への緊急提言」と題したインタビューを行っています。第1回目となる今回は、当機構代表の黒川清がおこたえします。

b0144534_1652014.jpg黒川清
(政策研究大学院教授/日本医療政策機構代表)
「医療制度改革―現実見極め基本法制定を」

医師不足や救急医療体制の問題に打開策が必要との声が高まるなか、舛添厚生労働相は「安心と希望の医療確保ビジョン」の策定を始めた。大臣主導で識者を集め、先月、具体化に関する中間とりまとめが公表されたが、内容に疑問を持った。現状の具体的な分析や長期的なビジョンがなく、基本的には「医師数の大幅増」という量的拡大に頼ろうとしている。日米の医療現場に40年以上かかわり、安倍内閣の特別顧問として、国民の健康作りの施策に助言してきた経験から、苦言を述べたい。

■医師不足対策には体系的な取り組みを
中間とりまとめでは、「50%程度医師養成数の増加を目指す」とあるが、どのように養成し、配分するかを示していない。社会状況を考慮せず、単に医師を増やすだけでは問題は解決しない。国民1人当たりの医師数を増やすと同時に、体系的な取り組みが必要だ。

まずは医師の地理的な偏在だ。10万人当たりの医師数は、最大の京都府は292人、最小の埼玉県は142人と、2倍以上の差がある。現在、病院ごとに定員はあるが、都道府県など地域の枠組みでの定員は考慮されていない。研修医の定員を地域の実情に応じて設定すれば、かなり解消できる。研修医は2年目以降、無医地区での診療を数カ月程度、義務づければ、研修医の経験の幅を広げ、無医地区解消にもつながる。

■専門医の資格要件など根本から見直せ
医師の診療科別の偏在は、広く知られるようになった。外科や産婦人科で医師が足りない一
方、精神科や形成外科などでは医師は増加している。国民に必要とされる医療を提供するには、医学界自らが専門別に定数を配分し、資格要件を明確にするなど、医師の養成制度を根本的に見直す必要がある。私は米国の大学病院で15年過ごしたが、医師は研究者、教育者でもあり、常に学び合い、切磋琢磨することで強い責任感を築いていた。専門医になる訓練や要件の厳しさを見習うべきだ。

■医療提供体制にも大きな改善の余地
医療の提供体制にも改善の余地がある。日本は他の先進国に比べてベッド数が極端に多いが、似たような医療機関が狭い地域に密集し、地域別の配分が悪い。都道府県を基本にした医療計画にもとづき、病院間での診療科や施設の重複を解消し、質の高いバランスのとれた配置にするべきだ。このことを通じ、国民1人当たりの医師数が増え、医師の労働環境も結果として改善できる。このような医療計画は、今回の妊婦のたらいまわしのようなケースの防止策としても有効だろう。医師の数ばかりではなく、医療提供システムと運営の改革も進められる。

■メディカルスクールの議論を
以上は、私論ではあるが、中間とりまとめには、こうした現状認識や改革の方法論についての具体策がほとんどない。審議に招かれた多くの専門家は、現場の切実な声を訴えたはずだ。
国民にとって重要なのは、単に医師数が増えるだけではなく、質の高い優れた医師が増えることだ。専門性のみならず、社会経験など多様な経歴と高い目的意識を持った総合的な判断能力を持った医師の養成が必要だ。カナダ、米国で定着し、豪州、韓国にも広まった「メディカルスクール」は、医学部卒でなくても、大学卒業後に医師を目指して4年制の医科大学院へ進学できる制度だ。日本でも推進する好機だ。

■今こそ、「医療基本法」を制定せよ
医療が国民の関心を集める今こそ、個別の問題への場当たり的な政策ではなく、医療の基本理念を定める新たな「医療基本法」の制定に取り組む絶好のタイミングでもある。

■本記事は2008/10/30朝日新聞朝刊17面「私の視点」に掲載された記事をベースにしております。

■略歴
黒川 清
政策研究大学院大学教授
日本医療政策機構代表理事

東京大学医学部卒業。同大学院医学研究科修了(医学博士)。69年-83年在米。ペンシルバニア大学医学部生化学助手、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)医学部内科助教授、南カリフォルニア大学医学部内科準教授を経て、79年UCLA医学部内科教授。その間、カリフォルニア州医師免許、米国内科専門医、同内科腎臓専門医免許取得。83年帰国し、89年東京大学医学部第一内科教授。96年東海大学教授、医学部長、総合医学研究所長、97年東京大学名誉教授。2003-2006年日本学術会議会長、内閣府総合科学技術会議議員。06-07年イノベーション25戦略会議座長。WHOコミッショナーをはじめ国際科学者連合体の役員、委員を務め、幅広い分野で活躍。
主な著書に「医を語る」「日本の選択 考えるエッセンス」(いずれも共著、西村書店)、「世界級キャリアのつくり方」(共著、東洋経済新報社)、「大学病院革命」(日経BP社)、「イノベーション思考法」(PHP研究所)

黒川清ブログ www.KiyoshiKurokawa.com

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by hpij | 2008-10-30 11:18 | 新政権への緊急提言