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「ブレア改革とその後-英国の医療制度改革と日本への示唆」勉強会開催のご報告
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2008年8月20日、都市センターホテルにて「ブレア改革とその後」と題した勉強会を開催しました。サッチャー政権で拡大した医療に対する国民の不満を解消するべく始まったブレア政権下での医療改革。我が国でも医療政策に対する関心が高まるなか、約200人の方々にご参加いただきました。

■イントロダクション
「主要先進国の医療制度」
小野崎 耕平/日本医療政策機構・ハーバード大学アジアセンター


「ブレア改革とその後-英国の医療制度改革と日本への示唆」勉強会開催のご報告_b0144534_1892986.jpg医療制度の国際比較の類型

各国の医療制度を比較検討するには、総医療費などに着目したマクロ比較や、医療提供体制や診療報酬制度の違いといったミクロ的な比較検討など、さまざまなアプローチが採られています。また「日米比較」のような2国間あるいは、OECD加盟国による多国間での比較検討なども典型的な例です。本日は、英国の医療制度というひとつの事例を検討する前に、これまで行われてきた主要先進国の医療制度の比較研究についていくつかご紹介します。

最初に見ていただくのは、ハーバード大学の医療経済学者ウィリアム・シャオが示した枠組みです。このチャートはシャオが示した軸に私どもが手を加えたもので、主に医療財源と国の価値観をあわせた視点からの各国の比較分析です(下図)。
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左端に「政府中心/平等重視」、右端に「市場中心/階層的」と置いた座標軸に各国をマッピングしたものです。左端には、政府の強いコントロールのもと、おもな財源を税金によってまかなう「政府中心/平等重視」の代表国としてイギリスが置かれています。そして、対局の国は右端に位置するアメリカ。一部に公的保険はあるものの基本的に民間保険中心で、市場原理と個人の選択を重視した国です。アメリカの左隣には、国民も国も「健康は自己責任」という強い価値観をもつシンガポール。医療貯蓄口座(MSA)などはその価値観が具現化したものでしょう。その左側には、社会保険によって財源を確保し、財源はパブリックで、病院等の医療提供はプライベートというミックスタイプのドイツ、日本、東ヨーロッパ諸国、中央ヨーロッパ諸国、ラテンアメリカ諸国が位置します。そして、税のイギリスと社会保険の諸国の間に位置するのがカナダ。この大きな座標軸と各国のポジショニングを頭に入れておくと、本日のブレア改革の話がより理解しやすくなると思います。

医療制度は国民の理念や価値観で決まる

国によって、誰が主体になって医療を提供すべきかという意見も大きく異なっています。2000年に行われた世論調査の結果を引用した資料を用意しました(下図)。

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「医療は政府が責任を提供すべきか」と質問すると、イギリス人は82%が「Yes」で、アメリカ人は33%しか「Yes」と答えない。アメリカは政府不信がきわめて大きな国ですから、国民は国になど任せておけないと思うのでしょう。カナダ人やドイツ人はほぼ意見が半分に別れ、見事に前出の各国のマッピングと一致します。つまり、国の医療制度の国際比較をする時に考えるべき最重要ポイントとは、「国民がどういう医療制度を求めているのか」ということ。医療制度は国民の理念や価値観によって決まる、またそれを抜きにしては語ることができないと言えるでしょう。

医療などの社会保障の政策選択は、「国民がどう生きてどう死ぬかという生き方の選択である」と思います。たとえば日本では、「公平・平等」をベースにあまねく広く医療提供をするという基本コンセプトをもとに制度設計されています。米国は経済力によって受けられる医療に差があるものの、そのかわり先端医療や医療技術には徹底的に投資をしている。医療制度の国際比較するときに「日本は優れているが、アメリカは良くない」などと優劣を論じる傾向がありますが、「好き嫌い」という個人の好みは言えても、「優劣」を断じることはできないはずです。それは、その国の国民の価値判断だからです。

なぜ、いま「ブレア改革」を学ぶのか

医療制度というと、診療報酬だ、家庭医制度だ、臨床研修制度だ・・・と、とかく制度論に議論の焦点が振れがちです。一方で、医療制度は目的のための手段に過ぎません。そして今、日本国に求められているのは、どのような医療を選択するかといった骨太の議論であり、わたくしたち国民がいかに政策決定や政治過程に積極的に参画するかということだと思います。政権選択選挙となる次期総選挙を前に、我々がこの勉強会を企画した理由もそこにあります。いま日本では、医師を増やそう、医療費を増やそうと「医療資源の投入増」に大きく舵を切ろうとしています。まさに大きな転換期ですが、その先行事例がブレア改革であります。イギリスの政治が、政府が、そして国民がどういう選択をして、それがどんな結果をうみだしたのか、ここに集まるあらゆるステークホルダーの皆さんでともに学んで議論したいと思います。

■主講演
「英国医療制度改革と日本への示唆」
富塚 太郎氏/ロンドン大学衛生熱帯医学大学医院・経済政治学大学院


「ブレア改革とその後-英国の医療制度改革と日本への示唆」勉強会開催のご報告_b0144534_16422686.jpg市場原理を導入した結果、医療が荒廃

本日は、1997年にトニー・ブレアが政権をとって後に手がけた医療制度改革についてお話しします。ブレアは、政権奪取後に医療改革に力を入れると宣言し、「Rebuilding the NHS」(意訳すると「NHSをぶっこわす」)のフレーズを繰り返し使いました。イギリスの医療は、ほぼ一般財源の税金で賄われており、その国営の医療サービスはNHS (National Health Service)と呼ばれています。

まず、ブレアが政権をとり医療改革をするにいたる前の医療史に触れます。NHSは1948年に設置されたのですが、それ以前、イギリスで医療保険制度はなかったと言っていい状況でした。保険はあるものの対象者は勤労者のみで、子ども、女性、高齢者は対象外、かなり悲惨な保険制度だったのです。そこで、第二次世界大戦の勝利で得た資金を大量に注ぎ込み、NHSがつくられました。NHSの特徴は、3つ。ひとつは全国民が対象である点。そして、ほとんどの医療がNHSでカバーされている点。3つめは、処方箋料など一部有料のもの以外、原則的に受診料が無料の点です。

1979年に保守党が政権をとり、マーガレット・サッチャーが首相となりました。サッチャー政権とそれにつづくメージャー政権は、「英国病」と国際的に揶揄された状況――不景気で失業率が高く、各種国民の負担も高い経済の停滞状況――を打開する施策の一環として、1980年代後半から医療制度の規制緩和を進め、公的負担を低減し、民間活力を導入する政策をとりました。財政難から英国版「医療費亡国論」が語られるような状況を背景にした改革でしたが、結論としてはうまくいきませんでした。むしろ医療事故の報告が増加し、国民の政府への不信感は募っていきます。

保守党による医療制度改革はいわば市場化の試みだったわけですが、市場化では、医療機関や医療者が利益追求に奔走するという競争原理の悪い側面ばかりが前面に表れ、NHSに込められていたはずの大きな政策目標「健康に関する格差をなくす」は二の次になってしまいました。

競争により生じた医療の質の格差は、貧富の差において顕著でした。65歳未満の冠動脈疾患による死亡率でマンチェスターは西サリーの3倍の数字を記録し、子宮頸がんスクリーニング受診率には地域によって67%から93%までの開きが生まれました。居住地域や貧富の差によって受けられる医療が違う状況となったのです(下図)。
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大胆な医療への公的支出増加策

1997年、ブレアが政権を奪取しました。ブレアは、医療制度改革のために2つの白書を発表。まず、1997年に「The new NHS」を、その白書にもとづいた3年間の活動をもとに2000年には「The NHS plan」を発表しました。彼の改革で注目されるのは、「The NHS plan」で示された改革の2本の柱、「医療への公的支出増加」と「医療従事者の増員対策」です。

イギリスの医療改革においては医療費の増加策を前面に打ち出したことが、きわめて革命的と評価されてます。では、医療費をどれくらい増やしたのか。「The NHS plan」が出された2000年には対GDPで7%以下だったのが、2005年には8.3%に達し、2008年には9.2%となる予想。実額では、1997年の456億ポンド/約9.1兆円から年7%の成長をつづけ、現在は20.8兆円と2倍以上になっています。

さて、以降はブレアの医療制度改革を、「ターゲット政策」、「規制政策」、「患者中心政策」の3つに分けて、もう少し詳しく説明しましょう。

最初にターゲット政策からです。数値目標を設定し、その達成をめざしてなされる政策をターゲット政策と呼びます。ブレア改革においてターゲット政策の優先分野となったのは、「健康の状態」と「医療機関へのアクセス」でした(下図)。
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この政策分野の設定方法が実に注目に値します。保健省主導ながら患者も含めた関係者の合意を得るとともに、財務省の合意も得て経済的な裏づけを確保したうえで取り組む分野を設定しているのです。

「健康の状態」では、がん患者の生存率や心疾患の死亡率の改善が試みられていますが、まだ成果と呼べるようなデータは報告されておらず、今後が期待されます。

「医療機関へのアクセス」では、救急外来での待ち時間4時間以内、家庭医受診48時間以内などの目標が設定されました(資料20P)。それまでは――有名な話ですが――、かかりつけ医としての家庭医にかかろうとしても、1週間後でなければ受診できない状況で、大問題となっていました。さらに、かかりつけ医からの紹介で病院を受診できるまでを13週間以内、入院までを26週間以内などといった目標も掲げられました。これらの目標設定によって、1997年に120万人だった待機患者が2007年には80万人にまで減少。特に6ヵ月以上の入院待ち患者は、2004年末時点で6万6000人だったのが、2005年末には48人と劇的に減りました。

 しかしながら、ターゲット政策には弊害もありました。たとえば「ゲーミング」と呼ばれる“インチキ”があちこちで行われました。例としては、救急コールから8分で救急車が対応すべきと設定すると、もっと早く対応できるケースでも8分かかる現象が起きた。また、救急外来の患者は4時間以内に診療との目標を達成するために、時間内に診られない患者に「救急外来に入らず、外で待っていてください」と言うようになった。さらには、救急車を病院の外に並べて、診療待ち時間のカウントが始まらないようにする現象などがあちこちで起こりました。

公的監査機関を設け医療の質を国が管理

次に規制政策について説明をしましょう。1996~1997年にブリストルの小児病院で心臓外科手術のきわめて高い死亡率が問題になり、15例についてショッキングな原因が内部告発されました。加えて、医師のハロルド・シップマンが殺人を犯し、被害者が200人以上に及ぶ事件も起きました。それらの問題に対してブレア政権は、医療職に質のコントロールが任されていた「医療職“内”での規制」から「医療職“外”からの規制」へと転換を図ります。つまり、国が医療の質に責任を持つことにしたのです。そして、Healthcare Commission(保健医療委員会)とNational Institute for Clinical Excellence(国立最適医療研究所)など、多くの医療の質に関する独立した公的機関が設置されました。

Healthcare Commissionは、病院の目標達成評価をする機関。年に1回、病院の目標達成度評価と患者満足度評価を実施し、目標達成できなかった病院への指導も行います。調査にかかわるスタッフは1600人おり、2004年の設立当初では年間約7870万ポンドの予算がつけられています。

National Institute for Clinical Excellenceは略称であるNICEと呼ばれ、治療や医療機器の評価と推薦、コスト効率分析、エビデンスに基づいた医療情報の提供やガイドライン作成などを行います。2003年の設立当初のスタッフは81人で、年間予算は約1760万ポンドです。

医療機関を選択できる情報源を整備

3つめは、患者中心政策。与えられる医療から、参加する医療に転換し、患者中心の政策を実現しようとしました。具体策のポイントは、(1)患者が十分な情報を持って紹介先医療機関を選択する、(2)患者の医療経験を調査・公表するという2つの点です。

日本はフリーアクセスで、患者が自由に医療機関を選べますが、イギリスでははじめに家庭医/GP(General Practitioner)を受診し、問題があれば病院を紹介してもらうシステム。新しい政策では、その紹介される先の医療機関を患者が複数から選択できることをめざし、選択のために必要な情報が提供される仕組みを整備しました。患者の主な情報入手源は、ウェブサイト「NHS choice」で、医療機関の院内感染率や手術の成績や医療機関評価のレーティングなどが簡単に閲覧可能です。コンピュータを使わない人のためには、情報が掲載された本が図書館にあり、いつでも閲覧できるようになっています。

改革後の患者の意識にまだ変化は見られない

改革の効果を、患者の医療経験調査から考察してみます。この調査は、いわゆる患者満足度調査とは異なり、患者が受診中に経験した具体的な事象や体験の有無を尋ね、集計結果を医療機関に客観的データとしてフィードバックし、改善すべき具体的課題の発見につなげようとするもので、年1回行われます。

実際の調査結果を2つ紹介しましょう。ひとつ目は、「必要なときに、すぐに病院に入院できたか?」(下図)の問いに対する結果。「できた」とする回答は2002年68%が、2006年には74%になっていました。この結果をもってして医療が改善されたと判断できるかは微妙ですが、少なくとも右肩上がりであるのは間違いありません。

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もうひとつは、「治療方針の決定に参加できなかったか?」。ネガティブな設問で、もちろん答えが「はい」の場合、問題であるとなります。プライマリ・ケア医の受診では結果は横ばい、病院においては「はい」が増加しています(下図)。
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これらの結果からは、さまざまな新しい政策を導入したが、残念ながら患者さんの経験にはあまり変化がなかった様子がうかがわれます。また、新しい政策によって医療が変わったか否かを患者の主観として調査する取り組みも行われたのでご紹介しましょう。こちらでも残念ながら、患者さんの主観的な満足度はほぼ変わっていないとの結果。やはり、制度改革の結果が目に見えてくるには、相当の時間がかかるのでしょう。

■コメント
武内和久氏/厚生労働省大臣官房国際課


実にうまい「飴と鞭」の使い方
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3年間にわたって、私が実際にイギリスでブレア改革見て感じたことを3つのキーワードでお話しします。

まず、「戦略と決断」。ブレアが、「NHSプラン」を策定し、10年という時間をかけて改革を進めたこと、そして政治的決断によって年間7%以上の医療費増を決めたことはインパクトがありました。その際、当時のイギリスは、経済が堅調で財政状況がとても良かった点も背景として見逃せません。このように、「求心力」のある改革、「腰を据えた」改革である点は印象深い点です。また、改革構想を描いて行く中では、既存の政治勢力や役所の関与も制限して、ゼロベースで医療政策の問題点を洗いざらい取り出し議論して改革を進めたのも特徴的です。また、10年スパンでの改革について、「インフラ」(量)を整備し、組織を改編し、NHSの文化を変え、それらを通じて「質」の向上を図るという流れが構想された点でも戦略的でした。

2つめのキーワードは、「投資と統制」です。これは、「飴と鞭」と言い換えてもいいもので(笑)、ただ医療費を増やすだけでなく、代わりに医療現場と医療従事者にも求めるべきことをしっかり求めた。そのやり方が、実にうまかったと思います。目標を設定し、達成できなければ――たとえば、救急患者を4時間以内に診られなければ――、医療機関の人事権をちらつかせて間接的なプレッシャーを与えた。その際、地域の医療資源を管理するプライマリケア・トラストの権限を強化し、医療機関へのガバナンスを強化しました。

3つめのキーワードは、「可視化」。ターゲットを設定し、目標が達成できているか否かを定量的に測れるようにしました。Healthcare Commission(保健医療委員会)で医療機関が達成すべき医療の水準、質をしっかり定義づけしたうえで、それらの目標達成度を評価する方式を採り入れたのかその好例です。すべての医療機関の評価が厳密にくだされ、その評価がすべてWebサイト上に公開され、国民が自由に医療機関の特徴と評価を閲覧できる点は驚くべき点です。これも医療者にはかなり大きなプレッシャーとなり、医療機関の人たちのマインドを変えるのに役立ったと思われます。

採点は、構想90点、計画70点、実行50点

政策当局者の視点で見て、感心する点がいくつもあります。たとえば、制度のあちこちに「遊び」の余地を入れている点。ガイドラインをつくると、日本ではガイドラインの9割、10割の遵守率が求められますが、イギリスでは7~8割の遵守率があれば良しとされ、残り3割ほどは現場の判断に任されます。このように現場の裁量の余地を残す点は重要です。

「Try & Error」も頻繁です。イギリスの医療改革では、とにかく次から次にアイデアが出てきて、次から次にアイデアを実行します。パイロット的に一部地域で試してみてうまくいけば全国展開し、全国的にやってみてうまくいかなければ、割に簡単に軌道修正します。とてもフレキシブルな医療政策の進め方は、我々にとってきわめて示唆深いものです。
また、国民の感情に訴えることに非常に意を払っています。ここも本当にうまいなと感じます。たとえば、「患者が医療機関を選択できるようになります」、「患者の意見を反映させます」といった強いメッセージを発信して改革への指示を高めようとの工夫には、まことに感心しました。

NHS改革は成功したのかと問われれば、私の採点では構想90点、計画70点、実行50点。青写真にはすばらしい内容がたくさん盛り込まれていましたが、具体化する段階で削られ、残った施策も、うまくいっているものばかりではありません。
「ブレア改革とその後-英国の医療制度改革と日本への示唆」勉強会開催のご報告_b0144534_1643287.jpgしかし、ブレア政権での医療改革にも「光」と「影」があります。待機時間短縮などで一定の効果を挙げた一方、あまりにドラスティックすぎたようで、医療の現状が改革のスピードについていけない点に深刻な問題があり、イギリスの医療関係者の間では、「改革疲れ」とも言える状況も見られます。今後、ブラウン政権で、現役医師でありながら保健省の政務官に任命されたダルジ氏の手腕が注目されます。
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【日本への示唆】
政治決断で大きな改革の突破口は開けること、そして国民に対するメッセージの出し方など政策実行フェーズでのディテイル(細部)へのこだわりが鍵を握ること、どれも日本にとって大いに参考になるだろう。また、政策過程への市民・患者参画が、実は行政・市民の双方にとってプラスであることも分かる。このような「患者中心政策」(患者中心「医療」と異なることに注意)は、日本の喫緊の課題のひとつであろう。

一方で英国の事例は、単に医療費や医師数などの医療資源の投入量を増やすことだけで解決できるほど「医療再建」の道のりが単純ではないことを改めて考えさせてくれる。医療費増加、医師増を求める声が日増しに大きくなる日本の医療界。しかし、これらの施策はあくまでも目的のためのひとつの手段に過ぎず、決して「バラ色の万能薬」ではないことを再度確認する必要があるだろう。

あらゆるステークホルダーが参画するオープンで健全な議論(Healthy Debate)を重ね、骨太な政策議論とともに小さな改革を根気良く積み上げていく努力が、いま私たち国民に求められている。(小野崎)

■講師プロフィール■
富塚太郎氏
1999年京府医大卒業。北海道家庭医療学センターにて家庭医として地域医療・教育の実践を経て、上医治國を志向し、医療制度・ヘルスポリシーを学ぶために渡英。2008年ロンドン大学衛生熱帯医学大学院・経済政治学大学院医療政策・計画・財政学修士課程修了予定。英国在住。

■関連記事■
当機構小野崎講演資料(日本医療政策機構ウェブサイト・要ログイン)
富塚氏ご講演資料(日本医療政策機構ウェブサイト・要ログイン)
富塚氏ブログ
武内和久氏「英国社会保障」
# by hpij | 2008-09-11 12:17 | 医療政策関連
第18回定例朝食会 「仙台市新型インフルエンザへの取り組み」
9月4日(木)に第18回定例朝食会を開催いたします。

今回は仙台市副市長で医師でもいらっしゃる岩崎恵美子先生をお招きし、「仙台市の新型インフルエンザへの取り組み」について、お話し頂きます。会場を表参道「Cafe hors et dans カフェオール・エダン」に移し、岩崎先生や当機構代表理事黒川と参加者の皆様が、よりインタラクティブにご歓談できるようご用意いたしております。

■第18回定例朝食会「仙台市の新型インフルエンザへの取り組み」■

■日時
2008年9月4日(木)8:00~9:00(7:40より受付開始)

■スピーカー:岩崎 恵美子 氏(仙台市副市長・医師)

■プログラム
8:00 開会
8:05 「仙台市の新型インフルエンザへの取り組み」(岩崎 恵美子氏)
8:35 質疑応答
8:50 代表理事黒川清よりご挨拶
9:00 閉会

■場所
Cafe hors et dans カフェオール・エダン(表参道)
地下鉄千代田線・半蔵門線・銀座線 「表参道駅」A2出口より徒歩2分

■参加申込方法
2008年9月3日(水)までに日本医療政策機構のウェブサイトよりオンラインでお手続
き下さい。朝食の準備の関係上、キャンセルの場合は、お手数ですが前日3日(水)
18:00までに事務局までお知らせ下さいますようお願い申し上げます。前日18時以降
に欠席のご連絡を頂いた方には、恐縮ではございますが会費をご負担頂いておりま
す。
■お申込はこちら

■照会先
特定非営利活動法人 日本医療政策機構 事務局
info@healthpolicy-institute.org

この朝食会はどなたでもご参加いただけます!皆様お誘いあわせの上、ぜひふるってお申込下さい。

■関連記事■
仙台市の新型インフルエンザ対策への取り組み(仙台市ウェブサイト)
「新型インフルエンザ」とは(厚生労働省)
# by hpij | 2008-08-29 14:29 | 医療政策関連
「ブレア改革とその後-英国の医療制度改革と日本への示唆」勉強会へのご案内(受付は終了しました)
この度は「英国の医療制度改革」勉強会ついてご案内させて頂きます。日本で家庭医として地域医療・教育に携わったのち、英国ロンドン大学において医療政策・計画・財政学修士課程を修了予定の富塚太郎氏に、英国における医療制度改革、特に医療危機を経験した90年代のブレア改革の実際とその後、また最近の動向などについて、家庭医制度の話も交えてお話頂きます。

世界各国で行われてきた医療制度改革の中でも、特に注目を浴びてきた英国ブレア政権における改革について学び、わが国における示唆を得たいと思います。なお、このイベントは、医療政策にご関心のある方であれば、どなたでも参加できるカジュアルな勉強会です。皆様のご参加をお待ちしております。

「ブレア改革とその後-英国の医療制度改革と日本への示唆」

「ブレア改革とその後-英国の医療制度改革と日本への示唆」勉強会へのご案内(受付は終了しました)_b0144534_1128262.gif■スピーカー:富塚 太郎 氏
(ロンドン大学衛生熱帯医学大学院・経済政治学大学院)

■日付:2008年08月20日(水)
■開始予定:19時00分(受付開始 18時30分)
■終了予定:20時30分
■申込締切日:2008年08月18日(月)先着順!
(受付は終了しました)



■参加費用:
 法人会員:無料
 個人賛助会員:1,000円
一般・登録会員:2,000円

■会場:都市センターホテル会議室5F「オリオン」※会場が変更になりました!

■プログラム:
18:30 開場
19:00 「主要先進国の医療制度」 小野崎 耕平 (日本医療政策機構)
19:15 「英国医療制度改革と日本への示唆」 富塚 太郎氏
20:15 質疑応答
20:30 終了 

■講師プロフィール
富塚太郎氏:1999年京府医大卒業。北海道家庭医療学センターにて家庭医として地域
医療・教育の実践を経て、上医治國を志向し、医療制度・ヘルスポリシーを学ぶため
に渡英。2008年ロンドン大学衛生熱帯医学大学院・経済政治学大学院医療政策・計
画・財政学修士課程修了予定。英国在住。

■主催:特定非営利活動法人 日本医療政策機構

■■■この勉強会のお申込はこちら■■■
なお、医療政策分野におけるキャリアや、日本医療政策機構の活動内容にご興味がある方も、是非ふるってご参加ください。当機構説明資料をご用意してお待ちしております。

■関連記事■
富塚氏ブログ
医学書院<寄稿記事>「日本で家庭医療専門医になる」
医学書院<寄稿記事>「医師が学ぶヘルスポリシー」
■日本医事新報【時論】
・No. 4372(2008年2月9日号)
 プライマリ・ケア再考 ─英国家庭医制度から学ぶ(1)
 プライマリ・ケア診療の質追求
 (葛西龍樹、富塚太郎)
・No. 4388(2008年5月31日号)
 プライマリ・ケア再考 ─英国家庭医制度から学ぶ(2)
 家庭医の役割・倫理教育と規制 ─特に医師免許更新制度を巡って
 (富塚太郎、葛西龍樹)
# by hpij | 2008-08-01 18:21 | 医療政策関連
第2回生活習慣病シンポジウムご報告
2008年7月14日(月)、筑波大学と日本医療政策機構は経団連ホール(東京都千代田区)において、シンポジウム「少子高齢化に伴う人口減社会を克服するための健康投資社会の実現を目指して!-医療制度改革がスタートした今、議論すべきこと-」を開催いたしました。生活習慣病対策や健康増進などで先進的な取組みを行っている自治体トップや、イノベーティブなビジネスモデルを構築し展開している国内外の先端企業の皆様によるパネル討論などが行われ、非常に活発な議論が展開されました。

プログラム
※登壇者名:発表順、敬称略

第2回生活習慣病シンポジウムご報告_b0144534_1116868.jpg≪第一部≫
12:20 開会挨拶:
 工藤典雄(筑波大学副学長)
12:30-13:40 ミニシンポジウム
「科学的根拠に基づくメタボリックシンドローム予防は、確実な成果が得られる」

■コーディネータ:
 生駒俊明(科学技術振興機構研究開発戦略センターセンター長)
■シンポジスト:
 坂根直樹(京都医療センター予防医学研究室室長)
 久野譜也(筑波大学大学院人間総合科学研究科准教授)

第2回生活習慣病シンポジウムご報告_b0144534_11214355.jpg13:50-15:20 シンポジウム1
「首長からみたこれからの地域健康づくり政策のあり方」

■コーディネータ:駒村康平
 (慶應義塾大学経済学部教授)
■シンポジスト:
 中貝宗治(兵庫県豊岡市長)
 久住時男(新潟県見附市長)
 仁志田昇司(福島県伊達市長)
 井崎義治(千葉県流山市長)
 梅原克彦(宮城県仙台市長)
■特別指定発言:黒川清(日本医療政策機構代表理事、政策研究大学院大学教授)

第2回生活習慣病シンポジウムご報告_b0144534_11221068.jpg第2回生活習慣病シンポジウムご報告_b0144534_11222572.jpg
15:30-17:15 シンポジウム2
「健康投資社会を可能とする健康サービス・イノベーションの課題」

■コーディネータ:
 近藤正晃ジェームス(日本医療政策機構副代表理事)
■シンポジスト:
 松尾嘉朗(大塚ホールディングス取締役)
 大井川和彦(マイクロソフト執行役常務)
 Julie Cheitlin Cherry(インテルデジタルヘルス事業本部アメリカ本社部長)
 窪寺健(NTTデータクリエイション推進部長)
 三木茂(NTTドコモ法人法人ビジネス戦略部長)
 日戸興史(オムロンヘルスケア執行役員)
 小澤正彦(損保ジャパン・ヘルスケアサービス代表取締役社長)
 松田貴夫(アフラック商品開発本部長)
■特別指定発言:生駒俊明 (科学技術振興機構研究開発戦略センターセンター長)
 吉武博通(筑波大学副学長)

≪第二部≫
17:30-19:00 総括基調講演&懇親会
 生駒俊明(科学技術振興機構研究開発戦略センターセンター長)
 黒川清(日本医療政策機構代表理事、政策研究大学院大学教授)
第2回生活習慣病シンポジウムご報告_b0144534_11283992.jpg第2回生活習慣病シンポジウムご報告_b0144534_1128588.jpg第2回生活習慣病シンポジウムご報告_b0144534_1132215.jpg第2回生活習慣病シンポジウムご報告_b0144534_11297100.jpg

■協力:インテル / NTTデータ / 大塚製薬 / オムロンヘルスケア / 損保ジャパン / NPO地域交流センター / つくばウエルネスリサーチ / (財)日本ウエルネス協会 (50音順)
■主催:筑波大学/日本医療政策機構

■関連記事■
■第1回生活習慣病シンポジウム
# by hpij | 2008-07-24 18:51 | 医療政策関連
第17回朝食会「『医療の質』を測る(福井次矢先生)
去る7月10日、第17回朝食会を開催しました。今回は聖路加国際病院院長の福井次矢先生に「『医療の質』を測る」というテーマでご講演頂きました。多数の皆様にご参加頂きありがとうございました。

<日本医療政策機構 小野崎挨拶>

最近「『医療の質』を測る 聖路加国際病院の先端的試み」というタイトルの本(註:インターメディカ 2007)が出版され、大きな話題を呼んでいます。この本で紹介されている聖路加国際病院の取り組みは、二つの点で画期的だと思います。一つ目は、医療の質を測る「モノサシ」を開発して、実際に測定したということ、二点目に、それを出版して大胆にも公開したということです。今日はこの取り組みを始められた福井先生にお話を伺います。福井先生は京都大学医学部を卒業後、聖路加国際病院内科で研修、その後、ハーバード大学の関連病院における臨床や、京都大学教授などを経て、現在は聖路加国際病院の院長としてご活躍されております。福井先生、よろしくお願い申し上げます。

第17回朝食会「『医療の質』を測る(福井次矢先生)_b0144534_11182837.jpg<福井先生講演要旨>

「『医療の質』を測る」

■なぜ「Quality Indicator」か
病院で、医療の質を数値として目に見える形にすることが、全ての医療者にとって、自分達が提供する医療を改善していく上における大きな動機付けになることを実感しました。「Quality Indicator」という医療の質を測る指標を導入し、それを改善するにはどうしたらよいか、聖路加国際病院における経験についてお話させて頂きます。

Quality Indicatorというものについて考え始めたきっかけは、臨床で患者さん一人一人を見ながら、一方で、常に対象集団のデータを頭において医療の質を考えなければならないという、公衆衛生的なバックグラウンドと深く関係していると思います(註:福井氏はハーバード公衆衛生大学院において臨床疫学でMPH取得)。例えば、私が米国にいた1980年代、アメリカでは、同じ病気でも病院や州によって行われる治療が大きく異なることが繰返し報告されていました。このような問題意識が背景にあったと思います。血圧を140/90mmHg以下にコントロールすることで高血圧による合併症をかなり抑えられることが証明されていますが、実際に病院で高血圧の患者を治療している医師達は、誰一人として全患者の中、血圧が140/90mmHg以下にコントロールされている患者の割合を把握できていません。私が以前勤めていた病院でも、他の診療科の患者のデータを見ることはできず、患者全体の血圧のコントロール状況を知ることはできませんでした。

■「ブランド病院」をデータで証明したい
そして4年前に聖路加病院に移ってきましたが、聖路加病院は外からはブランド病院のように思われていましたが、本当にそうなのか。すなわち、質の良さではなく愛想の良さや建物の綺麗さなどのレベルで評価されているのではないかという疑問を持ちました。私は「ブランド病院」であることを真に証明するデータを出したいと思いました。聖路加病院は5年前に電子カルテ化し、それにより全ての患者のデータを引き出せる状態にありましたので、それを利用して医療の質を測る試みを始めました。医療事故については個人の能力・注意力に任せるのではなく、システムとしてのアプローチ、即ちフール・プルーフ(間違ったことができないようなシステム)を作ったり、フェール・セイフ(間違えたことをしても患者に危害が加わらないようなシステム)を作ったりというアプローチが取られていますが、標準的な医療についても個々の医師に任せるのではなく、システムとしてアプローチするべきだと考えています。病院全体として責任を持って、適切な医療を提供するために、医療内容を目に見えるようにするのが「Quality Indicator」です。

第17回朝食会「『医療の質』を測る(福井次矢先生)_b0144534_1119459.jpg従来、医療の質は、「ストラクチャー」「プロセス」「アウトカム」という三つの側面で表されてきました。ストラクチャーは医療機器や専門スタッフの充実度、プロセスは医療や看護の内容そのもの、アウトカムは患者の死亡率や治癒率など医療の結果としての健康状態のことです。日本の病院は全体的にはストラクチャーは非常に恵まれているので、我々は新たに医療の質を診療内容(プロセス)+結果(アウトカム)+患者の納得・満足という形で表すこととしました。

■臨床疫学の重要性
適切な医療とは何かを突き詰めると、それは根拠に基づいた医療と言えます。医療上の判断の根拠には生物学的論理と、人を対象とする臨床疫学的な結果という二つがありますが、根拠に基づいた医療というのは後者の方であり、患者さんに実際に行なった結果がどうだったかという調査・研究の結果を重視しようという考えです。これは、生物学的な論理がいまだ不完全であることを考えると、当然であるとも言えます。欧米における大規模な臨床試験からは、生物学的には正しいと思われる医療内容でも実際の患者の健康にもたらす結果は悪かったという事例もあるのです。信頼できる臨床試験の結果を根拠とし医療を提供することが強く求められていると言えるでしょう。

このような流れの中、信頼できる診療内容が「診療ガイドライン」という名前で色々な学会によってまとめられ、一般の方でもインターネットなどを利用してアクセスすることが可能になってきました。欧米に遅れること15年、ようやく日本でも信頼できる医療の環境整備が進んできました。

■欧米の先行事例に学ぶ
しかし、欧米は既に次のステップに進んでおり、信頼できる医療が実際にどれだけの病院で実施されており、その結果患者の治癒率や満足度がどのように変化しているかという検証まで行なわれています。現実的には、どれだけ信頼できるデータに基づいた医療内容をガイドラインとしてまとめても、それに則って診療を行なわない医師が少なくないというのも事実です。そのため、いかに医師にガイドラインに沿った診療をしてもらうかというのが大きな課題となっています。そこでindicatorにより提供する医療の質を数値化しフォローすることで、ガイドラインに沿った診療を促すことが欧米で行われており、実際にそのような活動で診療内容が改善されたことが多数報告されています。

このような医療の流れを知った上で、聖路加病院ではアメリカやオーストラリアなどの外国のQuality Indicatorを参考にして、2004年のデータから算出・公開を始めました。聖路加病院は診療情報管理士という、カルテの内容を管理する職員が20名近くおり、そのうちの5名にQuality Indicatorに関する仕事をやってもらうことにしました。肺炎患者における来院4時間以内の抗菌薬投与率や急性心筋梗塞患者における退院時処方率など、100近くのIndicatorを測定しています。たとえば、糖尿病患者のヘモグロビンA1cの値を7%以下にコントロールすることで合併症を非常に少なく抑えることができますが、聖路加病院では糖尿病の薬を処方されている全ての患者の中で、ヘモグロビンA1cが7%以下にコントロールされている患者の割合もIndicatorとして扱っています。そして、2005年では50%にすることができ、これはアメリカの39.8%に比べて良い成績と言えます。しかし我々はもっと成績を良くするために、糖尿病の患者を10人以上担当している医師毎ごとに、担当患者のなかでHbA1cを7%以下にコントロールできている割合を出しています。これは必ずしも医師の臨床能力のみを反映しているわけではありませんが、こうすることで改善の方策を検討できるようになります。

第17回朝食会「『医療の質』を測る(福井次矢先生)_b0144534_11193892.jpgIndicator改善の方策の中でとくに力を入れているのは、医師の教育です。聖路加病院では糖尿病を専門としている医師は3名しかいません。それを踏まえて、先ほどの医師毎の成績のグラフを見せつつ、医師の勉強を促し、勉強会を何度も開いています。その結果、HbA1cを7%以下にコントロールできている患者の割合は、年毎に増加し、2007年には62.5%にまで上がりました。特に、勉強会に参加しなかった医師よりも参加した医師の方が成績上昇が著しいことが分かりました。このQuality Indicator導入において、一般的に一番恐れられていることは、難しい患者の診療を放棄して他の病院に送る医師が出てくるのではないかという点ですが、幸い、危惧するようなことは起こっていません。

■さらに広がる取組み
毎月一回病院においてQI(Quality Indicator & Quality Improvement)委員会というのを開いております。委員全員でデータをフォローし、必要に応じて院内のさらに大きな会議でその数字を見てもらっています。現在は私達の病院内での取り組みに留まっていますが、本を出版したこともあり、他の病院の病院長なども関心を持ち始めています。今後おそらくQuality Indicatorの概念は広がっていくと思っています。多くの医療者が医療の質や患者のアウトカムという話に興味をもち、医療へのやりがいを再認識して頂ければ幸いです。


<質疑応答>

Q: 患者満足度の測定についてはどのように行なわれているのでしょうか。
A: 病院としては毎年フォローしていくために、できるだけ簡略化した満足度調査を行っています。5つくらいの項目について、その数値を毎年フォローしていきます。2004年と2005年は全国の病院で使われていた患者満足度調査法を使っていました。しかし、項目が非常に多くてそれをずっと使っていくのは負担が大きいと考えましたので、それを参照にしながらできるだけ少ない項目で毎年フォローしていけるようなものを考えて、今年から使い始めたところです。全体としての満足度と治療への満足度の二つを評価できるようにしています。

Q: 看護の質をどう評価するということかの点ですが、今後どのように充実させていくお考えでしょうか。
A: 医師だけでなく、できるだけ多くの職種が関わるIndicatorを作りたいと考えています。診療情報管理士が全ての部署をヒアリングして、出したいIndicatorはないかを聞いてみるなどしています。しかし、医師以外のIndicatorはまだ未成熟な部分があります。例えば看護については褥(じょく)瘡(そう)の発生率や看護師の資格などしか出ていません。今後もさらに検討していくつもりです。医師だけでなく、たくさんの職種が関わるIndicatorを扱うことが重要だと思います。

Q: 患者の満足度という観点からいうと、医療の質に加えてもう一つ、病院経営の質―具体的には待ち時間の長さや説明時間の短さ等が大きな不満の原因になっています。病院経営、医療制度そのものといった病院自身の努力では解決できない部分に対してどのように取り組んでいくおつもりかお聞かせ下さい。
A: 医療制度(診療報酬)に余裕がない現状では、時間をかけた、ゆったりした診療では膨大な赤字を抱えてしまいます。これを解消するためには制度そのものを変える必要があると思います。初診の方なら45分、再診の方でも最低15分は診療を受けられるようにすると満足度も上がるでしょう。しかし、赤字が増えてもいいから理想の医療を、と言えないのも情けないところです。また、医師が実際にどのような説明をしているかという点については、今のところはカルテでは内容まで踏み込んだ記録はとれないのが現状です。会話した内容にいつでもアクセスできるようにテープだけでも録れれば、患者さんとの意思疎通の行き違いなどもかなり予防できるし、何分説明したかということも記録できます。診察室の中で医師と患者が一対一になるのではなく、第三者からの観察が可能な状況だということを意識することで診察の質は確実に上がるはずです。プライバシーの問題さえクリアできれば、何らかの方法で第三者による観察が可能な状況を作りたいと思っています。

第17回朝食会「『医療の質』を測る(福井次矢先生)_b0144534_1120283.jpg<当機構代表理事 黒川挨拶>
慢性の疾患が多くなると患者としては色々話を聞いてほしいことが出てくる。しかし、大学の教授が時給1700円程度で働いている現状ではこれ以上話を聞くのは難しい。従って、これを解決するには医療制度そのものを変えなきゃいけない。そのためには、厚労省の人だけではなく、国民それぞれが、より良い世界を作っていくのだという視点を持って、日本にとって何を必要で何を選択するべきか考えていく必要がある。このような開かれた議論の場を通じて、私たち国民自身が考えていくことが重要だ。

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# by hpij | 2008-07-24 11:22 | 医療政策関連